#小説を書いていることを伝えた日

#小説を書いていることを伝えた日

『選考を重ねました結果、貴作が大賞となりました』

 某投稿サイトからそうメールが届いたのは、夫がコロナに感染して療養しているときだった。

 その頃はまだコロナウイルスは第5類に移行しておらず、濃厚接触者ももれなく隔離生活を余儀なくされる頃だった。どこからウイルスをもらってきたのか夫は感染し、彼の感染が発覚するまで夜は隣でグースカ寝ていた私も、不本意ながら会社を休むことになった。

 なんとか自分は感染しまいと、夫を完全隔離し、部屋という部屋を消毒。彼がトイレに行けば使い捨ての手袋をして消毒しまくった。

 そんな生活に疲弊していた頃、大賞受賞メールが届いたのである。

 夫には小説を書いていることは言っていなかった。だから夜パソコンで執筆していても、「今から帰るよ」の電話があると速攻片付け、コロナの隔離生活の中でバレないように静かにパソコンを打っていたら、トイレに起きた夫に「なにしとん?」と言われたときは「TVer観とる」と噓をついた。

 秘密にしていた理由を聞かれると、「ただ恥ずかしかっただけ」である。書いてはコンテストに応募し落選する、というサイクルを結婚前から続けていたし、自分には「大賞を受賞する」という成功は夢のまた夢であったため、「大賞を受賞したら伝えよう」と思っていた。私にとって西から日が出るくらい大賞受賞はありえないことだった。

 しかし、このメールを受け取る少し前に、公募に出していた作品が受賞は逃したものの最終選考に残ったので賞金を差し上げます、というメールを受け取った。なんと、文章で初めてお金をいただいたのである。

 このときさすがに「夫に言った方がいいのではないか」と思った。家計のお金を管理しているのは私で、夫名義のカードも通帳も預かっている身ではあるけれど、会社以外での収入はちゃんと報告した方がいいのでは、と思ったのだ。

 けれども結局、その賞金の振込先は自分名義の口座にせざるを得ず、意図せず証拠隠滅を図ってしまった。

 まぁ今回だけ、バレなきゃ犯罪にならない、などと自己擁護し、次賞金をもらったら言おう、と来るわけない明るい未来を想像していた。

 それが案外あっさりと来てしまった。大賞を受賞し、お金が出るというのだ。

『正式発表になるまでどうかご内密に』という文言を見て、すぐに言わなくていい理由ができた。しかも夫はコロナ感染でしんどそうだ。落ち着いたら言おう。振り込まれたら言おう。

 なかなか言えなかった。療養後も、大賞作品がメディア化されても、お金が振り込まれても、私の口は閉ざされたまま、夫に言うことができなかった。(病的なまでの消毒等努力のおかげで私は感染しなかった)

 そうしてずるずると言えない時間が過ぎ、某投稿サイトから再びメールが届いた。

『選考を重ねました結果、貴作が大賞となりました』

 嘘だろ、と思った。ごみ拾いとか募金とか、そんな慈善活動なんてしてないのに、二度目があっていいのか。うれしいけども!!!!!

 さすがに隠せなくなった。もはやこれまでとは逆に、無性に言いたくなった。これらの賞金で欲しいものができたのだ。

 私は学生時代ずっと吹奏楽部で、社会人になってからも某音楽隊に所属し楽器を吹いていた。微々たるものだが出演すれば出演料がもらえたので、コツコツと貯めていた。このお金のことは夫には言っていたので、それらのお金と小説での大賞賞金で、楽器を買おうと思い始めた。家計のお金で買うのではなく、趣味や夢で稼いだお金で楽器を買いたい!

 どのタイミングで言うのがいいか。まるでプロポーズするかのようにシチュエーションをいろいろ考えた。夜ご飯を食べているときがいいか、テレビを見ているときがいいか、寝る前布団に入ってからがいいか。それともどっか出掛けたとき? 家じゃない方がいい? 遊園地に行って観覧車の中とか? テーマパークのアトラクションに並んでるとき?

 思考が飛びに飛びまくった結果、夫はダイニングテーブル、私はリビングでお互い好きなことをしているときに切り出した。

「ねぇ。私、小説書いとって、最近コンテストで二回大賞とったんやけど」

 なんでもないように言ってみたが、結構ドキドキした。なんて言われるだろう。「ショウセツ……?」と変換するのに時間がかかるだろうか。「音楽に飽き足らず小説も書いとん? 暇人やな」なんて今まで現したことない第二の性格が出てくるだろうか。

 彼の反応はこうだった。

「え、すごいじゃん。出版されて印税入るん? 家族に有名人おるとか、自慢じゃわ」

 残念ながらそういった賞ではなかったのだが、メディア化されるということで原作使用料が入ると伝えると「よかったじゃん!」と言い、さらに楽器が欲しいと伝えると「買いねぇ買いねぇ。なんなら家計のお金で買いねぇ」と言ってくれた。それは私が許さないので断ったが、私のしたいことを否定しないでくれることに感動した。

 それから隠す必要がなくなったので、帰るコールがあっても執筆しながら「おかえり」が言えるようになった。彼も「執筆中?」と言って邪魔しない。おかげで家で書く時間が増えた。

 たまに読んでもらってもいる。そして感想をもらう。彼は真面目に「面白かった」や「ここ、分かりにくかった」と言ってくれるので助かる。恋愛は読ませられないけれど。そしてペンネームも教えていない。聞かれてないし。率先して教える気もない。でも小説を書いていることは知っている。それくらいの距離感でいいかな、と思う。

 ちなみに母と兄にも言ったが、「印税どれくらい入るん?」と聞かれた。みんな印税気にしすぎじゃね?

 ちなみに2。私が人生で一番初めに小説書いていることを伝えた人は、中学の担任の岡田先生だ。その話はこちらで↓

#私が小説を書く理由

 なんてこった! 長くなっちまいました。岡田先生に怒られちゃう。さーせん!

(了)

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