#小説を書いていることを伝えた日

#小説を書いていることを伝えた日

テーブルに置かれた一枚の紙。その先には、眉根を寄せた両親が座っている。私はひたすら怯えて、彼等の返答を待った。

紙には「進路希望調査」と、無機質に文字が並んでいる。すぐ下には「将来の夢」という欄。その下に書かれていたのは、何度も書いては消しを繰り返した跡の残る鉛の線。

"小説家"

初めて僕が、誰かに将来の夢を打ち明けた瞬間だった。

小5の頃から憧憬を捧げてきた仕事。自殺さえ考えてしまっていた私を救ってくれた小説を、書く仕事。沢山ある、なりたい理由は喉まで出かかっていた。しかし、沈黙という圧に耐えられず僕は理由を口にする事はできなかった。そして両親は暫くなんの反応も示さない。

恥ずかしいと思った。

こんな私でも、書く事で生活できるとは端から考えてなどいない。だがそれを説明するのも叶わなかった。
長い無音の後、父は溜息を吐く。呆れた口調で一つ呟いた。

「もう少し大人になりなさい」

途端に視界が歪む。喉が、息が、震えて仕方なかった。
小説を今書いているのかと追って聞かれ、私は小さく頷く。
見せられるような物ではない。ど素人が書いた、拙くて自己満足でしかない物語ばかりだ。僕は奥歯を食いしばって、ひたすら時間が過ぎるのを待っていた。

「文章を書くだけで食っていける奴なんていない。現実を見ろ」

分かっている。そんなことくらい、分かっている。でも反論できるほど私は強くなかった。

両親の言葉はどれを取っても正しくて当たり前の事ばかりだった。
簡単になれる訳ではないこと、
それだけで生活が成り立つ筈がないこと、
趣味に留める事もできるということ、
そして「現実的な話ではないこと」。

うちはあまり裕福でない。
だから二人が子供の収入云々の話を無視できないのは当然の事だった。自分の子供が金銭面で苦しむのを見たくないのだろう。それに、小説を学ぶ為の学校に通わせるのも気が進まなかったのかもしれない。

彼等の気持ちも痛いほど分かった。
だがそれ以上に、夢を否定されたことへの痛みが胸を引き裂いていた。

僕は心の何処かで「自分の親なら応援してくれるだろう」と踏んでいたのだ。それもあって、裏切られた訳でもないのに裏切られた気分でいた。今思えばどうしてそんな期待をしていたのかが不思議である。

小説を書いていることを伝えた日。

両親を絶対に見返してやると決心した。

肯定しなかった事を後悔させるほど、素晴らしい物語を書き上げてやると心に決めたのだ。
今もそれは書く原動力となっている。

あの日があったから、私は、僕は、諦めの悪い物書き見習いになってしまったのだろう。
でも両親が否定してくれたお陰で、しっかり夢と向き合うことが出来ていると思う。

あの悔しさを一生忘れない。
あの軽蔑の眼差しを一生忘れない。
あの日を一生忘れない。

(長くなりました、すみません💦
自分的にこの「小説を書いていることを伝えた日」はとても重い意味を示すので気合が入っちゃいました。
最後まで読んで下さった方々に心からの感謝を。
ありがとうございましたm(_ _)m)

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