それは秋晴れのマス釣りで
故郷を離れてこちらでできた親友とも長い付き合いになる。
時には一緒にモータースポーツ観戦のため、サーキットに通ったり。
LIVEなどもよく一緒に行っていた。
少し離れた場所に住むようになってからも年に数回行き来をしたり旅行をするくらい仲良しなのだ。
そんな仲良しにずっと秘密にしていたのは、自分の趣味「ちょっと小説書いてたりして~!」だった。
一番最初にカミングアウトをちょっとだけしたのは、川釣りをしてる最中だった。
あ、言っておくけど私も友達も「女性」である。
女性らしくない趣味かもしれないが、お互いがそんなんだから気が合うのだ。
職場で席がたまたま隣になっただけなのに、これは神様が与えてくれた奇跡のような出逢いだと思うんだ。
あ、閑話休題。
で、川釣りをしながらボヤいたわけだ。
「実はさ、ちょっとさ、趣味で小説書いてるのよ」
「え? リコちゃんが?」
「はいー……、いや、そんでさ、コンテストにいっつも落ちててさ。落ち込むわー」
妄想コンテストで一回も入選せずにいた、一年目の私。
笑い流して欲しかったのに。
「すごい! 私さ、本も読まないから、書けるだけでもすごいと思うよ」
バカにされるどころか、励ましてくれた友よ。
そっか、書けるだけですごいんだって、もうちょっと書くぞって思えた日。
でも、小説を書いてるって話はその時以来する機会もなく、聞かれることもなく一年の時が過ぎる。
二度目は焼肉屋
二度目は焼肉屋だったと思う。
彼女の家の近所にある美味しくて安いと評判の焼肉屋。
待ち時間の間に、ソワソワしながら近況報告をした。
「私さ、アンソロジーだけど本が出るんだよ」
「あんそろじい? なに? え? リコちゃん、本出すの?」
「う、うん。言っておくけど、あれだよ? 背表紙に名前が載ってるわけでなく、何人かが選ばれてってやつで」
「すごい!! 選ばれるって、めちゃくちゃすごくない? 買う! 買うから教えて! 名前言いたくないなら言わなくていいから、買わせて」
「お、おう、お……、読んでみて私がどれかわかったら教えて?」
「わー! めっちゃ、楽しみ~!!」
その後「5分後にときめくラスト」を彼女に教えた。
数日後「買ったよ~! 楽しみに読むね」という写真付きのlineが届く。
でもね、私普段本読まないから、全部読み終わるまでかなり時間かかると思う。
いつかサインちょうだいね!
それきり、彼女の方から私の名前について聞かれたことはなかったのだが。
三度目の告白
「実は今日、賞を獲ったんだ。大賞ではないんだけど、結構大きな賞で」
アルファポリスで第6回ライト文芸青春賞を獲ったその日に彼女にlineで報告をした。
その数分後、返事が来た。
「もしかして、これ!?」
スクショつきのline、下に貼り付けたのが実際のスクショ。
な、なぜだ……!?
震える私はすぐに電話をする。
「な、なぜ、私だと」
「うん、あの本(5分後にときめくラスト)の中で、冬を書くの上手な人だなって思ったんだよ。この人、絶対『雪国生まれ』だなって思ったのと、読みやすかったんだよね。リコちゃんのだけ、なんでか二回読んだんだよね」
野性的な勘を働かせた彼女は、東里胡を私と断定し、その日の発表を調べたら出てきたらしいのだ。
「函館って書いてたし、これはリコちゃんしかいないだろうなって」
「あーうー、その通り」
「おめでとう、すごいね、すごいよね、小説家じゃん」
「いえ、まだ小説家ではない」
「ええ、でも書籍化って」
「後ろ、見て!書籍化検討って書いてるだけ。でも、小学生の時の夢にちょっとだけ近づいたかも」
「えええええ、そんなずっと思ってたの?すごいね、本当にすごい!!お祝いしなくちゃ。私また本買うからサインちょうだいね!」
「う、うん、書籍化したら私からプレゼントするから」
「いいから、いいから、絶対買うって!」
そんな彼女とは、それから二度会った。
一度目は彼女が趣味で作っているアクセサリーをお祝いとしてプレゼントしてくれた。
めちゃくちゃ嬉しくてLIVEにつけていったら、汗でキラキラが剥げて腕に引っ付いたことを二度目に会った時に「ごめん」と伝えた。
二度目の時は、ほっこりじんわり大賞受賞後のこと。
ご飯を食べてアイスコーヒーを半分飲んだところで思い出したように彼女が言った。
「あ、そうだ、そうだ、大賞だよね!乾杯じゃんね!おめでとう、もう半分もないけど」
「今更!?」
混んでるランチ時の店内で二人してゲラゲラ笑いながら、残り少ないアイスコーヒーのグラスを合わせた。
基本的に誰にも言わずに小説を書いている私のことを唯一知る彼女。
いつか、書籍化できた時に、ゆっくりでも一生懸命読んでくれるんだろうなって思うと、なんだか泣きそうなほど嬉しくなる。
ちゃんと私と言う人間を知り、書籍化してくれと願ってくれてる人がいるっていうのは、本当に心強い。
彼女が親友であったことは、やっぱり神様が与えてくれた奇跡だと思うんだ。
これは私が「友達に小説を書いていることを告白した日」とその後の話である。
長いな笑
コメント
小説にできそうな、素敵なエピソードですね✨
@水涸 木犀
ありがとうございます!私の親友が彼女で本当に良かったです!笑
めっちゃジェラった!私もリコさんと釣りに行きたい!!!!←
じゃなくて、素敵な友だちがいて✨
めちゃくちゃいいお話だなぁと思いました🥰
@百度ここ愛
ありがとう!ジェラ嬉しいな笑
不思議なほど、変な趣味や好みで繋がっていて唯一繋がっていないのが、小説だったんだよね
書き手としてはここ愛ちゃんと繋がってるぞ!笑
友達ってほんと宝物ですよね✨素敵な出逢いに感謝、そしてお祝いしてくれる優しさに涙ですね!
@佐々森りろ
りろさん、ありがとうございます!
リアル友達本当に少なくて遊べる友達って今もしかしたら彼女一人かもしれない。
アイスコーヒー半分以下でのお祝い乾杯は泣き笑いでしたけども笑
感謝しかないです
めちゃめちゃいいはなしだった!!!
@遠宮にけ🐾nilce
にけさん、ありがとう!!
乾杯の時はめっちゃお腹抱えて笑ってましたけどね笑
友達天然なんです