プロローグ 地球
少女は村人の死に深く落ち込んでいた。
そんな彼女を元気付ける為、
彼は自分の眼に宿る不思議な能力を使った。
少女が今まで一度も見たことのない変化に富んだ景色。
それが空いっぱいに浮かんでいた。
「あっ、観て!
一面真っ黒な世界に、
心が洗われるような綺麗な宝石があんなにたくさん……。
こんな素敵な世界があるのね」
「どうだ?
実はまだまだ見せ場はたくさんある」
「ホント?
ほかにはどんなものみせてくれるの?」
「ああ。これはどうだ?」
「どこ?
木々に白く綺麗なお花があんなにたくさん。
あ!
急に景色が変わった!
あれ私知ってるわ! 水よね?
でもあの水、
ゆったりとした音を響かせながら
ゆっくりゆっくり動いてる。
あのお水、いったいどこまで続いているのかしら……。
あれ?
空には私のいるこの世界と一緒で雲があるのね。
でも、私の知ってる雲と形が違うわ。
それに、ゆっくりとだけど動いてる。
あ!
今度は急に暗くなって……、
ねえ、なあにあの光?」
「あれか?
あれは花火と言うらしい」
「はなび?聞いた事ないわ。
だけど、綺麗……」
「次はこれだ」
「今度はまた周りが明るくなったけど、
木々に赤い花があんなに沢山……」
「そして、最近みつけたオススメがこれだ!」
「また周りが暗くなったわ!
あ!
最初に見せてくれた 宝石に似てる……。
お花や雪の結晶の形、あれはアーチ、
あれは一本の高い木ね
どれも凄く綺麗。
一度本当に見に行ってみたいわ。
ねえ?
今私達が観ている風景って
どこにあるの?」
「詳しくは知らない。
だが、あれは確か、チキュウって言う星らしい」
「チキュウ……、
本当に変化に富んだ素敵な星ね」
退屈しない素敵な毎日を過ごしていた
二人にとっての幸せな関係。
その素敵な関係は
残念なことに長くは続かなかった。
それは、
彼にも始まってしまっていたから。
少女の身の回りに起こってきた
あの現象が……。
消えゆくモノ
今までと変わらない少女とは違い
彼はある日を境にどんどん体が薄くなってきていた。
「実は、ずっと隠してきたことがあるんだ……」
彼は少女に向かってそう言うと、
自分が少女に対し正体を隠し
騙し続けてきたことを勇気を出して打ち明けた。
「うん……、知ってた」
「え? どうして知ってるんだ?」
「満月の日、
あなた私のところに来なかったでしょ?
私は、気になってあなたを探したわ。
そして森の中で見ちゃったの。
あなたの本当の姿を……」
「そっか……。
姿見られていたのか。
でも、それならどうして逃げ出さなかったんだ?」
「逃げたりしないわ。
だって……、
あなたは私と一緒で寂しそうな目をしていたし、
そんな私とずっと一緒にいてくれて
支えてくれたっじゃない?」
「ありがとう……」
彼は今この瞬間にも消えてなくなりそうで、
少女は一時も彼から目を離すことができなかった。
そして、少女はモジュラーの神に願った。
「私の命を捧げます。
だから……、
だから、彼を助けてください!」
少女は何度も何度も泣きながら
祈った。
泣きすぎて声も出なくなってしまったその時だった。
少女の目の前に、
彼女そっくりの素数空《だるま》と名のる女性があらわれた。
遍在するもう1人の私
「はい。
彼の存在はもうじき
消えて無くなります」
「そんな…………。
何か、方法は無いの?」
「ハァ~、やはり諦めきれませんか……。
あなたならきっとそう答えると実は予想はしていました。
仕方がありませね……」
〝それ〝は決して明るくは無く、
むしろ曇った表情でしぶしぶそう答えると、
食い下がる少女に対しある条件を出した。
「彼が消えるのを止めてあげましょう。
但し……、一つだけ件があります」
「条件……?
それってなに?」
「あなたにはその代償を払ってもらいます」
「代償?
彼が助かるなら私どんなことでも受け入れるわ!
だから教えて?
私がどうなれば……、
彼が助かるの?」
「あなたには次元の果てで
たった一人永遠に眠りにつくという約束をしてもらいます。
そして万が一。彼があなたを探しみつけたとしても、決して彼を近づけてはなりません。
もしあなたがこの約束を破れば、
あなたと彼はお互いに記憶を失います。
そして、仮になにかの拍子に記憶を思いだせたとしても、あなたの理性が暴走し、ただでは済まされないでしょう……。
あなたにそこまでの決意と覚悟はありますか?」
「……」
少女は一瞬考えたが、彼女に迷いは無かった。
「いいわ、お願い!」
少女は、自分自身《それ》に向かってそうきっぱりと答えた。
紹介文
さあ、未だかつて誰も 観測《み》たことも無い 超次元《じげん》へ……。
理系女子たちはVRで196883次元に行き、謎の男子や結晶の少女と出会う。
※笑い有り感動有りのSFヒューマンファンタジーです。
10代〜40代の幅広い男女の方々に楽しんでいただけると思います。
シリーズ 第一段!
アホで愉快な科学部理系女達がなんと
『19万6883次元の世界』を冒険しちゃいます!
おなじみ科学部4人は
愛理栖の姿をした謎の男子と出会うのですが……。
男の子はある研究者から逃げ出してきたと言うのです。
詳しく調べたところ、その男の子は196883次元から来たことがわかりました。
そこで谷先生は196883次元を人工的に体験できるVR装置を発明しました。
真智ら4人と謎の男の子はさっそく196883次元の世界へとダイブします。
そして……、出会ってしまうのです。
にわかには信じられない程膨大な対称性を秘めた結晶に眠る女の子に。
りけじょ!のシュールな冒険 超次元編
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第1話に続きます。
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