#小説を書いていることを伝えた日

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希望みつけた

その時僕は無職だった。会社を辞めてきたのだ。あるものと言えば、大学の卒業証書だけだった。それを後生大事に持っていた。何にもならないことに気づかずに。
前勤めていた会社の女性の上司から、近況の御機嫌伺のハガキが届いた。その女性は、会社の中の仲の良い先輩だった。そのはがきは、写真入りのもので、赤ちゃんが載っていた。
(結婚してお子さんができたのだ)
そのかわいい赤ちゃんを見ているとなぜか怒りが沸いてきた。自分の人生のうまくいかないことに対する怒りをその幸せそうな赤ちゃんにぶつけそうになったのである。そんな心になりそうになる自分に怒った僕は、最後の綱であるその卒業証書を破り捨てていた。
(こんなもんあるから、こんなもんに頼ろうとするからこんな無垢でかわいい赤ちゃんに怒りの感情が沸いてくるのだ。こんなもの捨てちまおう。裸一貫やり直しだ)
人に頭を下げる人生の始まりだった。仕事では年下の上司に頭を下げまくった。地を這うように人に頭を下げ続け、プライドも何もかもボロボロズタズタになっていった。卑屈にはならないようと思っても、いわれのない冤罪をかけられることもあった。いくらやってないといってもその上司の論理の中では僕がやったことになってしまうのだ。我慢して我慢して、吹き出しそうになる怒りに蓋をし続けた。息も吸えない時があるくらい、すなわちパニック障害になるくらい悩んだ時期もあった。ストレス発散と称して、休みの日にはサウナに入りびたりになったりした。唯一、勝負事の世界、囲碁将棋は実力本位の社会で息ができた。でもそんなに強くもなかった。
長いこと、子供どころか結婚いや彼女さえ作る機会を失っていった。
そんな中、「文学作品の募集」のネットを見つけた。人生のやり直しのためにと応募した。なかなか賞はとれなかったが、二次選考まで残ることができ、文学的才能高校卒業程度を手にすることができた。少し安心した。
(僕の人生間違ってなかったかもしれない。少しだが人生の足場ができたし、息も吸えそうだ)
(もしネットにでも作品が乗ることがあったら時々仕事で会うあの女性にそのことで話しかけてみようか)
と考えている独身の僕がいた。

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