古語コン作品のあとすぎるあとがき

古語コン作品のあとすぎるあとがき

写真は2018年1月の京都

 今さらですが、今年3月にpixivの『エモい古語辞典』小説コンテストにて、光栄にも大賞をいただいた作品「モラトリアムの夜明け前」について語りたくなりました。

「モラトリアムの夜明け前」
https://novel.pixiv.net/works/3501

 若いころはノリノリであとがきを書いていたものですが、年々、作品について熱く自分語りする元気と勇気がなくなっております。黒歴史を生み出すリスクが少なくなって安心ですね。
 ただ、この作品については、作品を書いたときの気持ちだったり、モチーフにした和歌への思い入れだったり、コンテストの結果発表から一年経ってしまう前にそれらを記録しておきたい、ふとそんな気分になったのです。

 私は、祖母の影響で子どものころから百人一首が好きで、平安時代の文学への関心が募り、大学では国文学を専攻しました。
 結局、文学で研究の道に進むことの様々な難しさや実力の無さに打ちのめされて、学問で稼ぐことは諦めました。挫折に近い経緯ですが、未練はあるので、今は気に入った和歌を自分で現代語訳して、拙い考察と共にmonogataryにコソコソ投稿するなどしています。

 古典文学も創作も諦めきれないまま生きていって、古語をテーマとしたコンテストの開催の告知を目にしたとき、「燃える」とはこのことか、というくらい興奮したのを覚えています。
 ふだんコンテストに参加するとき、極力結果を意識しすぎないようにしているのですが、本コンテストについては、どうしても何かしらの爪痕を残したい……! 強烈にそう思いました。
 しかも、テーマの選択肢には「可惜夜」がありました。
 作品でも取り上げた「あたら夜」が詠みこまれた源信明歌ですが、これは私がとくに好きな和歌の一首でした。コンテスト以前に、「趣味の文章」で考察していたぐらい、もともと思い入れのある和歌です。

「趣味の文章」当該歌の章
https://monogatary.com/episode/341327

 この和歌をモチーフに、古語コンに参加しよう! 決意してからが難産でしたが、〆切間近にようやく完成させて、今に至ります。
 当該和歌、『信明集』では女性へ贈った恋の歌のように読みとれますが、『後撰和歌集』からは必ずしも恋歌とは断定できないと思っていたので、作品では友情のお話の種としました。

 また、作品の彼女たちが徒歩でたどった北大路から河原町までの道のりは、私自身も学生時代に歩いたことのあるルートでした。だんだん暗くなっていく鴨川沿いを、友達と雑談しながら歩いていくときの、空気の匂いとか風の温度とか、そういうものは今もかなり生々しく思い出されます。そのころから年月が経っているので、流石にインターネットに頼りながらの描写にはなりましたが。
 自分を登場人物に投影したつもりはありません。ただ書き上がったときに、自分が大切にしているものや景色や思い出を素直に文字にして、信明歌と鴨川の流れに乗せてストンと描写できたなあ、という手ごたえはあったように思います。

 書き上げられただけでも幸せだった作品で、大賞という結果を得られたことは、私の人生でも一、二を争う嬉しい出来事だったといっても過言ではないかもしれません。創作にも古典文学にも、未練がましくしがみつき続ける人生でよかった。
 またこんな気持ちになれる作品を書きたいです。コツコツ生きていきつつ、和歌や鴨川の景色と同じぐらい好きなものを増やしていければ、また書けるだろうと思います。

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