一劫年《テトライオン》のカムラ~生命40億年のスゴロク 第1部 1

一劫年《テトライオン》のカムラ~生命40億年のスゴロク 第1部 1

第1話 明《あ》かりを知らない世界

ここは深く深く、そして、真っ暗で水と岩だけの
『灯《あか》りの無い世界』

その中で生きる精霊達。
そんな精霊の一人に、
明るくて暖かい天上世界に憧れる
冒険好きな少年がいた。

   

プク・・・

プクプク・・・

プクプクプク・・・

『ザバ~ン!』

『ジィ~~~~ン!』
蓮姫はどこかわからない場所に落ち、何かにお尻をぶつけた。

「痛え!
ケツくそ痛え、ケツをバットで激しく打ち付けられたみたいに痛え~!
くそっ!立っても痛え、しゃがんでも痛え、中腰も……、いや?
これ案外楽かも!」
蓮姫のお尻にとって今は中腰が一番楽らしい。

『ガクガクガクガク』
「しかし、この体勢続けているとケツは大丈夫だが足が痺れるな。
それに、おしっこ行きたくなっちった。
ちょっと失敬して」
『ジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボ』
「はぁあああ~♪
ここがどこだかは知らねえが、
知らない場所で目を瞑ったまま下半身丸出しでおしっこするこの解放感!そして背徳感!最高だべ~♪
ったく~、
それにしてもだ!
やっと頭痛と目眩が収まったと思ったら次はケツかよ!」
蓮姫はそうやって不満を吐きつつ、恐る恐る目を開けてみた。

「え? 何だここは……。真っ暗ではないか!
それに……、この大袈裟に感じる程の爆音で
大きな水が流れる音、天井からしたたる音。
それに……軽い。私は宙に浮いてるのか?
ここは鍋の中……か?」
感じるのは、
水の感触や、やや熱めにさえ感じられる水温、硫黄臭い匂い。
そして……。
『ポタ……ポタ……』
まるで鍾乳洞の中を想像させる
流れる水音と天井から落ちる水滴の音の反響。

「お姉ちゃん! そこどいて!どいて!
早く!」
突然、後ろから聞こえる少年の声。
しかし、現在お尻丸出しで絶賛エアー便器中の蓮姫がそれに気付いた頃は既に一足遅かった様だ。

『ドーン!!☆@♯』

「ギャフゥ~~~ン!」
エアー便器中の蓮姫はぷりケツの構えのまま後ろから迫ってきたそれを受けとめると、鼻息をたて踏ん張る。
「フンガァァァ~!!」
『プゥ~♪』

「臭っさぁー!!」

「ムカー!」
『ドスッ!』

『ぐへっー!』

「あっ、悪い」

「ちょっとー!
お姉ちゃんなにその塩対応!
ボク今お姉ちゃんのボディーブローで口から血吐いたんだよ!
さじ加減間違えてたら死んじゃてたんだよ!
臭いって言ったことは謝るけどさ、
ボクの扱いおかしくない?」

「なんかすまん・・・、
でもまあいいじゃないか。
私という美少女のぷりケツに弄ばれるチャンスなんて人生でそうは無いぞ。
アハハハ!」

(わぁ~、このお姉ちゃん変態だぁ……)

「どうした? 私の顔をじろじろ見て」

「な、何でもないよ。
ところで、ボクもぶつかってしまって本当にごめんなさい。
お姉ちゃんは怪我は無かった?」
そう言って、すぐに蓮姫に駆け寄って来たのは、その少し上目遣いで頼りない話し方から想像して歳は蓮姫より少し下のようだ。

「私は大丈夫だ。 小僧こそ怪我とかは大丈夫なのか?」

「ボクは大丈夫。」

「そうか。
ところでお前はさっき
どうしてあんなに慌てていたんだ?」
蓮姫は少年からことの一部始終を聞いた。

「なるほど。つまりお前はなんだ、
『水源まで昇ろうとして火傷しそうになった』とこう言う訳だな?」

「そうなんだよ。
ところでお姉ちゃん?」

「なんだ?」

「お姉ちゃんを急かして申し訳ないんだけど、ボクそろそろ行かなきゃ!
ここでグズグズしていたら、黙って村を抜け出した僕を両親が不審がって探しにきちゃうんだ。
だから僕もう行くね。
ありがと~、お姉ちゃん!」

「ちょっと待つんだ小僧!」

「え?」
少年は、疑問に感じつつも
蓮姫の引き留めに応じ立ち止まった。

「お前はどうして、そんな危険を冒してまで
上流に昇ることにこだわるんだ?」
蓮姫は一番気になっていた疑問を少年にぶつけてみた。

「どうしてってそれは……。
お姉ちゃんははマザー様がどんな人なのか知りたいって思わないの?」

「マザー? お前の母上のことか?」

「母上じゃないよ! 《《マザー様》》!」

「マザーが母上様じゃ無いなら、どんな人なんだ?」

「お姉さん……本当に知らないんだね!」
少年の口振りは驚いた様子だった。

「私は長い旅をしていてな、
ここの土地のことはまだあまりよくわかん」

「なるほど、それなら仕方ないよね。
ボク達村の人間はみんなマザー神話の伝承を聞かされてるんだ。
そして、そのマザー様って言うのはね、僕や僕の村全員の共通のご先祖様を作った神様なんだ」

「お前達のご先祖様を作った神様か!
でも、
ご先祖様って言うとかなり昔じゃないか?
ご先祖様を作った神様がまだ生きてるとは限らないじゃないか?」

「マザー様は生きてるよ。
少なくともボクはそう信じてる」

「どうしてだ?」

「理由はボクにもわからない。
でもね、マザー様はとっても強くて大きくて
寛大で、いつでもボク達を待っていてくれる。
僕はそんな気がするんだ。

だから、僕は絶対マザー様に会いに行くんだ!」
そう話す少年の口調はイキイキとしていて、
道中降りかかるかもしれない困難さえ、払いのける力強さがあった。

「それにしても……、火傷しそうになってまでお前本当に無茶をする奴だな。
まあ、それはいい。
ところで、実は私も人を探していてな。
小僧、お前は 《《時の主》》っていう奴に心当たりは無いか?」

『《《時の主》》じゃと!?
どうしてそれを?』
後ろのほうから聞こえてきたその声は、
少年のものでは無かった。

「お婆《ばば》様!」
その声からして、少年の知っているお婆さんのようだった。

「その声はオイロスじゃないか!
お母さんが心配して探してたよ。
早く帰っておやり」

「ちぇっ。仕方ないなぁ~」

「小僧、お前の知り合いか?」

「この人はお婆様。僕達の村で一番物知りの
占いをするお婆さんなんだよ」

「オイロス!」

「はいはい、わかってるって。
ボクは多分明日もここに来るから。
さよならお婆《ばば》様!
じゃあまたね~、そっちの《《オバチャン》》!」

「ちょっと、誰がオバチャンだぁ~!?
私はこれでもまだ17の未成年だぞ!
あっ無視して逃げるな~!
このクソガキ~!」
少年の逃げ足は早く、
足跡はすぐに聞こえなくなった。

「少年はオイロスと言ったっけ。
全く、逃げ足の早いガキだ」

「ところで、貴女《あんた》に聞いてもいいかな?」

「え? 私か?」

「そうじゃ」

「大丈夫だが、何だ?」

「貴女はさっき『時の主』とおっしゃいましたな?」

「ああ」

「マザー様のこと、どこまで知っておる?」

「マザー様っていう奴のことは私も知らん」

「時の主のことは、……」

「……?」
あれ?年老いた行者の名前が出てこない?どうして?

「どうしましたかな?」

「すまん、最近風邪ぎみでな。喉の調子が悪かっただけだ」

「風邪?
失礼を承知で聞くが、貴女はこの世界の人じゃないんじゃないかね?」

「ああ、そうだ。
私はお前達の生きている場所とは違うところから飛ばされてきたんだ」

「なるほど、そういうことかい。
わたしはご先祖様からマザー様の言い伝えを沢山聞いて覚えておる。
貴女の探している時の主というかたがマザー様のことであれば、何か力になれることを占ってあげられるかもしれん」

「本当か?」

「多分な。あたしの家に来るかい?」

「もちろん行く。よろしく頼む」
蓮姫は、村人からお婆様と呼ばれる
この老婆の家についていくことにした。

「こっちだよ」

「何? そっちか」

「そうじゃ。 あたしの声からはぐれないように気をつけなされ」

「わかった!」
蓮姫はそう答えた。

でもそれは強がりで
本当はついていくのに必死で全然わかっていなかった。

(どうして、少年やこの老婆は、周りが真っ暗で何も見えないのに
目指してる場所や方向が簡単にわかるのだ……?)

蓮姫はそこが不思議で仕方が無かった。

「なあ、お婆。
あなた達は周りが全く見えないのに、
どうして迷わずすいすい泳げるんだ?」

「どうして迷わないかって?
わたしらは光を頼りに生活していないからね。
貴女はこの世界で、一番何を感じる?」

「私に質問か。
そうだなぁ。水の感触」

「そう! わたしらもみんな水の感触を頼りに動いているんだ」

「水の感触か。
でも、たったそれだけの情報じゃ
行き先なんてわからないのではないか?」

「わたしらの生活圏ではそれだけで充分なのじゃ。
水が少しずつ下へ向かって流れている一本の道を温度の違いを頼りに泳いで移動しているんじゃよ」

「そうか!
確かに、少年のいたところからお婆の後ろを泳でいる時、
あまり体が疲れないのはその為だな。
つまり、少年は水の流れに逆らって上に泳いでいたんだな」

「そうじゃ。 ほら、もうすぐ着くぞ。
あれがわたしの家じゃ」
老婆の家は、今までいた上流よりも温度がやや高く、
いつの間にか水の流れが止まっていた。

「気付きましたかな?」

「ああ。 ここはさっきまでのところより温かく、
それに流れが止まっている」

「そのとおりですじゃ。
この行き止まりの先は、かつては果てしなく広がる水の流れの早い池の底に繋がっていたのですじゃ。

われわれのご先祖様ハムザ族の言い伝えを教えようかね。

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↑【登場人物】
•蓮姫《カムラ》
•オイロス
•おババ様
•マザー様

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