不老不死の薬
昔昔、インドを連想させるガンガラ大陸のとある小国に裕福で若く美しいお姫様がいました。
お姫様はお金に物を言わせ、望むものは何でも手にいれることができました。
しかし、お姫様が望んでもどうしても手に入らない物がありました。
それは《《永遠の命と若さ》》でした。
ある日、年老いた行者が
その願いを叶えられると言い
お姫様を訪ねて来ました。
「お姫様、これが願いを叶える不老不死の薬でござります」
行者は謁見の間でお姫様にそう言って、
薬の粒が目一杯入った壺を見せました。
「おう!これか?待ちわびたぞ!
ところで行者よ、
この薬はどうやって飲めばいいのか?」
お姫様は行者に聞きました。
「寝る時に砕いて水に混ぜて飲んで貰えればいいのですじゃ」
「おう!わかった。効果が出るかはまだ疑わしいがお金は払ってやる。
召し使い達、
この行者に褒美をわたしてやれ」
「はい、わかりました」
召し使いから褒美を受け取った行者は、
《《補足》》があるのでと姫様に言いました。
「姫様、その薬は粒を砕いて粉にして、
水にほんの少しだけかけて飲むのです。
これは《《必ず守って》》くだされ。
そうし…」
「わかったわかった。私も忙しいのだ、もう下がれ」
行者は召し使いに城門の外まで追い出されてしまいました。
その夜、お姫様は召し使いに薬を一粒砕くように命じ、
砕いた粉を一つまみ水に溶かし飲んで寝ました。
次の日、
目が覚めたお姫様は一目散に水鏡《みずかかみ》のある部屋に行き、
最近おでこに出来た悩みのシワを映してみました。
「ちっとも変わらんじゃないか……」
お姫様は昨日の年老いた行者を呼びつけました。
「行事よ。 全然効果が出ないではないか? これはどういう事か?」
「姫様。 わしは確かに不老不死の薬の壺を持っておりますが、
まだ一粒も渡しておりませぬ。
今日、ちょうど姫様にお持ちしたところですじゃ 」
「何を馬鹿な事を申すか!
私は昨日薬の壺をもらい飲んだぞ!
なあ、お前達も見ていたであろう?」
お姫様はお世話役の召し使いに聞いてみました。
「姫君、大変申し訳無いのですが、先日不老不死の薬等は見ておりません」
「なんじゃ! お前達まで私を馬鹿にする気か!
もう良い。薬は私が自分で煎じて飲む。
異論は認めん!」
お姫様は昨日、母親と喧嘩をしたようで、
朝からイライラしているようです。
お姫様は行者に大金を渡し壺を乱暴に奪いとると、
自分の部屋に籠り鍵をかけました。
その夜、お姫様の部屋からは乱暴に粒を擦り潰す音が絶えず響いていました……。
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↑【登場人物】
•蓮姫《カムラ》
•行者
※第1部の主要登場人物について詳しく知りたいかたは、
第1部巻末の『第1部 主な登場人物』をお読みください。
一劫年のタイムリープ
「イタタタ~。
頭を打ったかもしれん」
蓮姫は金槌で叩かれたような強い鈍痛で目が覚めた。
そして頭を抱えながらゆっくりと起き上がると、
辺りをくまなく見渡した。
「あ、あ、あ…………」
あまりの驚きで、他の声は出ない。
なぜならその時、
彼女の目に信じられない光景が飛び込んできていたのだから……。
「どこだ……ここは?」
真っ暗な空。
どこまでも果てしなく続くどろどろで真っ赤な血の池。
空を見上げると、炎に包まれた赤黒い不気味な球体が浮かんでいる。
「私は……死んだのか? ここはもしや……、
噂に聞く地獄とやらか?」
その異様か光景は本当に不気味で、そして恐ろしくもあった。
◇やっと気がついたようじゃな?◇
突然、蓮姫の意識の中に天から声が聞こえてきた。
「その声は!
さては~お前、
私に薬の壺を持ってきた行者だな?」
◇さすが姫様、お察しがいいですなあ~♪
しかしのう。薬を売る老いぼれの行者はわしの仮の姿。
実はわしは人間では無い。名はバイシャジヤ・グルという。
如来と言ってもまだ姫様の時代ではわからんよのう◇
「え~い、鬱陶《うっとう》しー!!
さっきからピカピカ眩しくて仕方がない
その頭はなんなんだ!?」
◇これですかな?
光輪《これ》はわしの……、
神を意味する小道具《こどうぐ》みたいなもんじゃよ◇
「な、なんだってぇ一???
信じられん……。
そ、それは貴様の髪を意味する
『小道具《カツラ》』だったのか!
まあいい。あんたのそのキレイにハゲ散らかった頭が隠れていようがなかろうが、
今の私にはどうでもいい」
◇姫様~!!
それ意味 違《ちゃ》いますぞぉぉ~!!
( >д
【追憶】おいてきたもの ※一部カムラ視点
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『……ラ…………カムラや。 カムラ。
そこじゃ風邪引くよ。こっちへおいで』
『おばあちゃん』
『他の話も聞かせてあげるから』
『ほんと~? わかった。そっちいく!
他の話、聞かせて~!』
おばあちゃんはわたしが寝る前にはいつも、
村に古くから伝わる民話を語り聞かせてくれた。
わたしはそのの時間がとっても大好きで、
毎日その時間が楽しみだった。
『……その青年はある日、ゴホ! ゴホ! ゴホ!』
『おばあちゃん! 大丈夫?』
『心配させてごめんね。おばあちゃんは大丈夫だから』
『おばちゃん……?』
おばあちゃんの身体の調子が良くない日はね、
最初はたまにだったんだけど、だんだん増えていった。
『カムラごめんね。 おばあちゃんね、今日は疲れていて
お話聞かせてあげること無理そうなの』
『嫌だ~! おばあちゃん、お話聞かせて~!』
その頃のわたしはまだ老いるっていう意味がよくわからず、体調の悪いおばあちゃんに無理を言ったものだ。
わたしはその頃、おばあちゃんと二人で暮らしていた。
わたしには本当のお父さんとお母さんの記憶が無くて、
物心ついた時におばあちゃんに聞いたんだけど、
二人は長い旅に出ているとしか教えてくれなかった。
わたしが12才になった年、ある日突然おばあちゃんがわたしに話しかけてくれなくなった。
わたしが何度話しかけても返事をもらえなかったから、
呪術に詳しい村の長《おさ》の爺《じいじ》に汚《けが》れを払ってもらうようお願いに走った。
だけど、爺はおばあちゃんの姿をみても汚れを払おうとはしなかった。
そして、おばあちゃんは生まれ変わるために長い旅に出るんだって……。
爺は涙を流しながら喜んでいた。
そして、おばあちゃんは村人の手でどこか遠くに連れていかれ、わたしが何度お願いしても二度と会わせてはくれなかった。
わたしはその後、長の息子夫婦の家に預けられたんだけど、
その時のお父さんは乱暴で家族に暴力をふるう人だった。
お母さんはわたしをかばってくれたけど、
わたしより1つ歳が上の実の息子のほうばかりいつも大事にしていたから、わたしは居場所が無くて辛くて仕方なかった。
そしてわたしは家出を決意した。
でも、家出をして身寄りがない子供の孤独感をすぐに痛いほど痛感した。
『わたし、寂しいよ。おばあちゃん……』
土砂降りのスコールから逃れる為、
わたしは路地裏の雨避けが出きる場所をみつけ、そこにじっとしていた。
実際は家出をした日から1日しか経っていなかったんだけど、
わたしにはそれが何日にも感じられた。
そして、今の大好きなお母さんが現れたの。
お母さんは凄く綺麗な服を着ていて、
わたしはそのお母さんに連れられて家に行ったんだけど、
その目を疑った。
そこはもの凄く大きなシャンテ王の宮殿だったから。
身分のわからないわたしを何故レージャーニアの寝居に連れてきたんだ~!
って最初お父さんはお母さんに怒っていたけど、
お母さんが説得してくれたおかげで、
わたしはお母さんの娘のお姫様として王宮で暮らせることになった。
でも、お父さんや兄弟達は拾われたわたしに対してあからさまに
嫌な顔をしたり避けたりして差別した。
召し使い達も、わたしがいないところでは酷いことをいつも言っていた。
でも、お母さんだけは違った。
わたしに厳しい時もあるけど、優しいときもたくさんあったから。
だからわたしはお母さんのことがとっても大好き。
お母さんは、昔おばあちゃんがわたしに話してくれたみたいに
寝る前に不思議な民話のお話を聞かせてくるから、
毎日その時間がくるのが凄く楽しみだった。
あれから3年が経って、わたしはもう15歳。
最近、お母さんはガイコウ問題とかでお父さんと頻繁に出かけて、何日も帰って来ない日が多くなってきた。
わたしが心を開いて何でも話せる人はお母さん以外はいなかったから、本当に辛くて寂しかった。
だから一昨日、わたしはお母さんに叩かれたとき、つい言ってしまったの……
『あんたはどうして……。どうして勝手に王宮を抜け出したの?
私だけじゃないのよ! お父さんや王宮の人達がどれだけあなたのことを心配して、必死で探し回ったと思っているの?』
『私はただ……、会いに行きたかったから』
『会いにって、まさか私に内緒で動物でも飼っているって言うの?
あんたって子は本当にもう!』
『違うってば!
王族育ちでなに不自由無く生きてきたあんたに
私の気持ちなんてわかるの?
私の本当のお母さんでも無いくせに、
こんな時だけ母親 面《づら》しないでよ!
大っ嫌い! 』
大っ嫌い!
大っ嫌い!
大っ嫌い!
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「はっ!?
…………」
蓮姫が走馬灯のような思い出から目が覚めると、
また白く眩しい光に包まれた。
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【登場人物】
•蓮姫《カムラ》
自称 わたし
•カムラのおばちゃん
•蓮姫のお母さん
※補足
カムラ(蓮姫)のモデル
チャンドラグプタ
インドのカーストの中で最下位シュードラの出身であるとされ、仏教系の文献ではクシャトリアの出身であるとされている。
これはマウリヤ朝が仏教という、当時のインド世界においては非正統派に属した宗教を保護したために、バラモン教の高位者たちがその王を軽視したことによるといわれるが、正確な所は分からない。当時マガダ国では、ナンダ朝の急進的な政策のために身分秩序が乱れており、チャンドラグプタが台頭したのはそういった状況下においてであった。
紹介文
不死の薬を飲んだお姫様。40億年前の地球からサイコロを振り元の時代を目指す。
各時代で出会う仲間や敵、そして驚愕の真実
※笑い有り感動有りのSFヒューマンファンタジーです。
10代〜40代の幅広い男女の方々に楽しんでいただけると思います。
振り出しは40億年前の地球
【女性主人公、物言いは少々荒いお姫様ですが、心身ともに強く美しい女性です】
各時代でサイコロを振り元の時代へ
驚きの真相を彼女はまだ・・
…続きを読む
《あらすじ》
幼い頃孤児だった彼女は王室の娘になる。
そして、思春期の彼女は永遠の若さ以外は何もかもを持っている満たされた人生の中でいつしか大切な気持ちを忘れてしまう。
しかし……、薬売りの老人から手に入れた不老不死の薬を飲んだことによって、
蓮姫の運命の歯車は大きく動き出す!
※各話の【登場人物】は
各話文末にまとめています。
※最新話前後の
《サブタイトルに TTIPS のある話》
は今は読み飛ばしても大丈夫です。
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第1話に続きます。
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