新学期
「ねえ、恵美!
起きなったら! 今日は始業式なんでしょ?
もういい加減起きないと遅刻するわよ!」
「え~、まだいいじゃん。
二日酔いで頭いた~い。
あ、うち熱がある。
なあ羽美?
ごっつ残念やけど、今日はうち仕事休むしかなさそうやわ」
「何ふざけたこと言ってんの!?
あんたのは仮病よ、仮病。
そんなワガママ駄目に決まっているじゃない。
朝から寝言言ってんじゃないわよ!」
「だってぇ〜」
「あんたが昨日、夜更かししてまでお酒飲んでたからでしょ?
あんたの都合で今まで何回数学の授業が自習になったと思ってんのよ?」
「いいじゃん。うちのクラスの生徒達だって自習嬉しいに決まってるって」
「あんたのクラスで自習が多いことはまだ……
いいわ。
いいのかしら?
まあ、そこは百歩譲っていいと言うことにしてあげるわ。
だけどね、あんたのクラスの一部の生徒達が自習の時間に学校抜け出して好き勝手遊んでたって職員会議で問題に上がっているの。
当然あんたも知ってるはずよね?」
「ああ、知ってるって。
あ〜わかった!
羽美姉のことやからどうせ、
生徒の教育上よくないから自習ばっかりは止めい言うんやろ?
いいじゃん、うちにはうちの教え方があるんや!
やから、うちのクラスの事にいちいち口出しせんといて!」
「ぜーんぜん、良くないわよ!!
生徒達の教育に良くないってこと以前にね、
私自身が迷惑してるの!
あんたのクラスの件が職員会議で問題になってからというものね、
あんたのクラスが自習のときは毎回決まってあたしがあんたのクラスの生徒をみらされているの!!」
「羽美が監視役ってことかい。それで?」
「それで? じゃないわよ!
迷惑よ!!
あんたに振り回されるせいで、わたしの担当教科の国語の進み具合もクラスによってバラバラ。
少しはわたしの身にもなってよ!!」
「じゃあさぁ~羽美、
ニュートンの運動の第3法則、言ってみ」
「なによ、突然関係無い話して」
「いいから答えてや、ふぉわぁああ」
「あくびしながら喋らない!!
え〜と、ニュートンの第三法則ですって!?
わたし文系だし、そんなの知らないわよ!」
「いいか〜、
ニュートンの第三法則はな、
ある物体が他のある物体に力を加えた時、力を受けた物体にも逆向きに同じ大きさの力がおよぶってことや」
「それが何だって言うのよ……」
「いいか? 人生はマラソンや。
うちが言いたいのはな、無理やり睡眠不足という逆向きの力に逆らって動くよりも、
睡眠不足という逆向きの力の量を減らしてから動いたほうが効率的でいいっちゅうこと。
マラソンで最初からオーバーペースで走るよりマイペースで走ったほうがいいのと同じことや。
わかるか?」
••• ••• •••。
「羽美姉ぇ今一瞬頭がフリーズして、
なるほどー!⤴︎……、ワカラン⤵︎
って顔してたやろ!?」
「あんたの説明はいつもいちいち回りくどくて長いのよ!
それに、小難しい話して誤魔化すなー!」
「しょゆう事なんで、うちは寝るな。
布団の中は 《《ユ~クリッと空間》》、
な~んちってww
ほな、すみ~zzZ」
「コラー! 寝んな~!!」
『すや~……』
「ムカっ!
ここまで言っても起きないつもりなら、いいわよ~。
あんたの恥ずかしい話、真智ちゃん達に言いふらしちゃうから。
フフフ……ww」
谷先生 心の声
(うちの恥ずかしい話って何や?
心当たりが多すぎて……どれかわからん。
しっかし、羽美ねえのこの気色悪い笑顔は何や!
腹立つわ~!)
『にっぱぁ~!』
谷先生 心の声
(やべぇ。羽美姉のこの顔!
この顔アカンわぁ。これ絶対アカンやつやん!)
「羽美姉ぇちょい、待ちい!
恥ずかしい話ってなんやねん!?」
「感情的になると口調が男の子みたいになるの、
あんた昔っからホント変わらないわね」
「余計なお世話……でございまちゅ」
「ん、ん……、ぷっ~、アハハ!」
「ムカ~! 羽美、笑うな~!
丁寧語なんて普段言い慣れてないから噛んだだけや……。
この |m9《エムキュー》スイーツ (DQN)め!」
「アハハ、ごめんごめん。あんたは今の喋り方のままのほうがいいわ。
おっと、話がそれるところだったわ。
あんたこの前のお見合いのときのこと覚えてる?」
「この前のお見合いって……、
それいつだったっけ?」
「えー!
まだ3ヶ月も経ってないのにあんたもう忘れたわけー!?」
「え〜、うん」
「あんたがお相手の男性に趣味を聞かれたとき!!
そのときのあんたの受け応えが馬鹿過ぎて、
私は今でも忘れもしないわ」
「え?
うち、お見合いでそんな恥ずかしいこと言ったっけ?」
「言った言った!
あんたはお相手の男性に気色悪い模様が入ったプリントを見せながら芸術的な価値とか言って熱く語っていたでしょ!?
クスクスww。
たしかえ〜と、あんたの趣味は《《マングローブ集合》》の観賞だっけ?」
「マンデルブロ集合や!」
「そのマンなんとか集合ってあれでしょ?
あんたの部屋に沢山飾ってある紙に載ってるアメーバみたいな気色悪いの」
「気色悪くなんてないわい!
羽美にはあのエレガントな芸術がわからない……の?」
「さすがにお見舞いの席であれは無いわ。
あの時私はその場には居なかったけど、
私達の両親やお相手の男性、そしてお相手のご両親に至るまで、みなさん驚きやあきれを通り越し、
まるで魂を抜かれたように固まっていたらしいじゃないの」
「うちの感性は天才肌だから、凡人には理解されないだけなんや」
「はいはい、恵美は立派な天才肌よ」
「そういう羽美ねえだって趣味変わってんじゃん」
「へ……?、どうして……?
自分の恥を指摘されたからって、私のことで有る事無い事出まかせ言わないでよ」
「へいへい。
え〜とな、この前真智達が遊びに来たときあったじゃん?
そのとき羽美ねえの部屋の鍵空いてたから、
真智達と入った訳よ。
そうしたらさ、男同士の情事を書いた本や絵が沢山あったんや」
「ちょっと恵美!?
私が買い物に出てる間にあんた……」
「そう言えば、作者 谷 羽美 って先生の書いた本もあったっけ?
へぇ~、同姓同名って案外身近にいるもんですなぁ~
谷 羽美 作
【『ねえ、清密《きよみつ》くん? 君は僕を……愛してくれるかい?』
『 急にどうした、羽美定《うみさだ》?』
『俺、扱いにくいんだよねー。
だ・か・ら、うまく扱ってね』
『わぁ~、羽美定、超嬉し~ ハート』】
「ちょっとちょっと、ストップストップストッーープ!!」
「はぁ〜。
駄目だ羽毛姉《こいつ》。早くなんとかしないと……」
「ちょっとあんた、読んだの~!!?
どこまで読んだの!?
ねえ、ねえったら!
あああーもぉぉぇ~!
ニヤニヤして人をなめ腐ったその顔マジでムカつく!」
「まあまあ、もちつけ!」
「これが落ち着いていられるかぁー!!」
「ハッ!!」
きっと何かを思い出したのだろう。
羽美は急に血相を変え、そして話を続けた。
「そう言えば私この前……。
国語の授業が終わって私が教室から出ていくときにね、真智ちゃんから真面目な顔で
『先生、恋愛方面で苦労されているんですね。
あたしは個人の自由だと思いますし、先生の味方ですよ!』
って言われたんだわ~。
その時はなんのことかイマイチ意味がわからなかったけど、
あれはあんたの仕業だったのねー!」
「ちぇ、バレテーラ」
「よし、私決めた。
今日はちょうど始業式だし、全校生徒の前であんたがマンデルブロ集合の観賞が趣味だって言う!」
「こらこらこら」
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【登場人物】
•恵美(谷先生)
•羽美《うみ》(谷先生の姉)
※主要登場人物について詳しく知りたいかたは
プロローグ『はじめに』をお読みください。
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【登場人物】
•恵美(谷先生)
•羽美《うみ》(谷先生の姉)
※主要登場人物について詳しく知りたいかたは
プロローグ『はじめに』をお読みください。
新入部員
「ねえ、四葉ちゃんは中間試験の結果どうだった?」
「私はこの前とあまりかわらないよ~。
真智ちゃんは試験の結果どうだった~?」
「あたしは数学と理科系の科目以外は全滅~。
日本史と地理は追試確定だし。
ああ、暗記教科なんてこの世に無ければいいのに~」
「真智は暗記教科てんで駄目だもんな、ドンマイ。
一緒に追試受けようぜ」
「そう言う宙《そら》は、赤点教科3つもあるじゃん!!
大丈夫なの?」
「あたいはスポーツ推薦狙ってるから
大丈夫大丈夫!」
「推薦でも赤点取ってたら大丈夫じゃないでしょ」
「大丈夫、気合いでなんとかするから!」
「『気合い』ねぇ~。体育会系の人って『気合い』や『根性』って言葉がホント好きよね~」
「おうよ!
気合いと根性で人生なんとかなる!」
「宙《そら》には悩みとか無さそうで、
幸せそうだね」
「そっか? ありがとな。
あれ?
数学は理系の真智のほうが点数がいいと思ったけど、文系の四葉のほうが点数いいんだな?」
「え、マジ?
ホントじゃーん!ひど~い!全くだよ~!
あたし、得意教科は数学と物理、化学だけなんだよー!
他の暗記科目は全滅だし~。
ねえ四葉ちゃん、どうして?」
「真智ちゃんはきっと問題を解くときにあれこれ深読みしすぎなんじゃない?
もっと単純に考えて答えを出していったら
数学とかはわたしより真智ちゃんのほうが点数よくなるはずだよ~」
『ドンドン!』
その突然の激しい音と3人が反射的に振り向いた瞬間はほぼ同時だった。
廊下から部室のドアを激しくノックする音だ。
その激しい音が連想させる恐怖感は真智達を元の世界に引き戻すのに充分だった。
「随分激しいノックだけど、あたし達以外で普段この部室に来る人って他には部活の顧問くらいしかいないし。
だからきっと谷先生……だよね?
あたし、出てくる」
「真智、サンキュー!」
???
「尋ねたいことがある!」
「は~い、今開けますから
ちょっと待ってくださーい!」
そう言って部室の入口のドアを開け真智だったが……、
(え? どうして……?)
「お、お」
『バタン!!』
真智は目の前にある状況が全く整理出来ず、
思わず入口のドアを閉めてしまった。
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【登場人物】
•真智《まち》
•四葉
•宙《そら》
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19万6883次元の記憶
「コラぁ~! オレをチラ見してすぐ閉めんな~!」
「ごめんごめん」
「なんて失礼なやっちゃ」
「いや~、雰囲気違うし、急だったからびっくりしてさ。
ごめんね、愛理栖」
「は? 愛理栖ってだれや?」
「へ?
あんた……、愛理栖じゃないの?」
奇抜で珍しい空色の髪、お洒落で異国風な服装。
そして、一番印象に残っている見た人を吸い込むような栗色の瞳。
その、どう見ても外見が愛理栖にしか見えない自称オレと名乗る少女はキッパリと否定した。
「そっか……」
「おい! なんだよ、その……、
人違いだから、もうあなたには全然興味ありません。早くどこかに消えちゃってください。
って遠回しに言ってるようなその冷たい目は!」
「まあまあ、二人とも落ち着きなって。
その人は真智の知り合いか?」
「それがさ~、違うみたい。
愛理栖のこと、たしか 宙《そら》にも話したことあったよね?」
「そやな。確か、あたいが真智達と仲良くなる前に
部活の部長さんだった人やろ?」
「そうそう。四葉ちゃんは一緒にいたよね?」
「覚えてるよ~。確か、愛理栖ちゃんが急に外国に行くことになって、部員みんなでタイムカプセルを埋めに長野県に旅行に行ったよね~?」
「ふ〜ん。
でも一つ聞いていいか?」
「いいけど、何?」
「お前達はどうして タイムカプセルを埋める為に
わざわざ長野県まで行ったのさ?」
「それは、愛理栖 の目的が "宇宙の夜明け"を探すことだったみたいで、あたしにも詳しいことはわからないけど、X座標とY座標の交点が長野県にあったらしくって……」
「ちょっとちょっと、あんたらー!
オレを無視すんな!」
「あー、君もいたんだよね。ごめんね~。
ところでさ、君は見た感じ女の子みたいだけど、
どうして男の子みたいな話し方してるの?」
「ハ!? オレは男だ!
それに、普通は最初にオレの名前を聞くもんじゃないのかよ?」
「ごめんごめん。
君の名前教えて?」
「オレは グリトラハン」
「難しい名前だね? 外国の人?」
「わからん。オレは研究所に預けられた10歳以前の記憶が無いんだ」
「とりあえず、グリ……なんだっけ?
その名前は呼びにくいから、
これから君のことは"グリ"って呼ぶね」
「なんだよその幼くて弱そうな名前は!」
「え〜!
あたしは可愛いと思うんだけどなぁ」
「ふん。オレは急いでるからまあ、
この際呼び方は好きにすればいい」
「ありがとう〜グリ♪
ねえ、ちょっとその髪触らせて」
「何だよ、猫みたいにオレに近寄って来んなよ。
シッ、シッ!
うっとうしい、離れろよ」
「いいじゃ〜ん、いいじゃ〜ん♪」
「真智は君が昔の親友にそっくりだから興味があるってよ」
「ウ、ウゼエ」
「ねえ〜。ところで君はどうしてわざわざ女の子みたいな格好してるの~?」
それはみんなにとって核心をつく質問だった。
「四葉ちゃんそれよ!
実はあたしもそれが気になってて、
後で聞こうと思ってたんだ」
「あたいも。
で、グリだっけ?
それはどうしてなんだ?」
「え~と……、それは」
グリはどもりながら言葉を探す。
「それは?」!」!」
みんかグリの応えをただじっと待つ。
三人の異性に一斉に注目された為、
恥ずかしくなら挙動不審にシドロモドロするグリ。
そんな彼の泳いだ瞳《め》にみんなが注目しないはずは無い。
「オレが……さ、
実験のモルモット だからなんだ」
「え、 何?
もう一回言ってもらっていい?」
「だから、俺はモルモットなんだよ」
「あの……、
モルモットってどういう事?」
グリのその予想の斜め上な答えにみんなは唖然としていた。
「「オレにはさ……、
ハッキリとした昔の思い出がキレイさっぱり残って無いんだ。
気が付いた時にはオレはこんな姿だった。
長野の紡績工場の敷地内でどしゃ降りの雨の中、
オレは意識を失い倒れていたらしい。
それからオレは清都の研究施設に入れられたんだ」
「グリは何か覚えていることは無いの〜?」
四葉は聞いた。
「何も覚えてない。 196883という数字以外はな」
「196883やて!!?」
谷先生は驚いて大声で叫んだ。
「谷先生!? 196883がどうしたんですか?」 真智は谷先生のリアクションに驚いた様子だった。
「これには数学の難しい話が必要になるやけどな、
お前ら中学生でもわかるよううちが説明したる。
その世界ではな、うちらの世界とは違って、
抽象的な空間があるんや」
「空間って三次元のですか?」
「そうや。もちろんその空間も含まれる。
話を続けるで。
まず、その空間はモンスター群と呼ばれてるんやけど、次元の数が196883もあるんや。
そして、これは行列で表す対称な性質の集まりでもあるんや。
それにな、このモンスター群はモジュラーと呼ばれるある不思議な式とも関係があるんや。
その式で平面に点や線を描くことでな、
楕円の形になるんや。
またな、答えが整数になる点が196883個あって、それは重さと呼ばれてるんや」
「なんだって!?
オレの覚えてる数字がそんなに重要な意味を持ってるのか!?
それじゃあ、オレはモンスター群の世界と何か関係があるのか!?」
「それはな……、 実はうちにもまだ確信は持てんけど、 そういう可能性はあると思うんや」
「どういうことだよ! オレは一体何者なんだ!?」
「それはな……、 その為には 沢山の高次元ポリトープを使った仮想現実、つまりVRを使うんや!」
「VR?」
「そうや。 実際にうちは一回だけその空間へ行ったんや」
「どうやって行ったんですか?」
「それはな……、 その話はまた今度にするで。 今はグリのことが気になるからな。
グリ、お前は一緒に来てくれへんか?」
「一緒にどこへ?」
「モンスター群の世界へや」
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【登場人物】
•真智《まち》
•四葉
•宙《そら》
•谷先生
•グリ
さあ、未だかつて誰も 観測《み》たことも無い 超次元《じげん》へ……。
「先生、VRって何すか?」
途中から話に飽きて、部室で一人ソファーに寝転びながらスナック菓子を食べ漫画を読んでいた宙。
『うわの空』ならぬ『うわの宙《そら》』で話を聞いていたはずの彼女が再び話に食いついてきた。
「宙、汚いからまずその鼻くそほじる癖治しや!」
「ほーい!」
「も〜、話脱線してもうたやん。
確かVRの話だったな。
VRとはヴァーチャルリアリティー 仮想現実のことや。
これを使えば、現実では有り得ない世界をみせることができるんや。
使うのは『特殊なコンピューター』と、
脳派をコントロールする
『ヘッドマウントディスプレイ』や」
「ヘッドマウント……ええっと」
みんなは固まった。
「ヘッドマウントディスプレイ。
つまり いろんな機械が入ったゴーグルを使うんや」
「あの先生?」
「何や真智?」
「その 《《ブイアール》》でしたっけ?
それは今どこにあるんですか?」
「それは今この学校には無い」
「無い!?
じゃあ、どこにあるんですか?」
「なあ真智、順を追って説明するから
少し待ちや」
「はい」
「うちらが使おうと思っているVRの装置は、
脳波をコントロールして脳の記憶や意識自体をバックアップして書き換えたりする高度な機械なんや。
そしてその機械は今、うちの研究室がある恥異賭大にある」
「谷先生、その恥異賭《ちいと》大学って名前、
いかにも手段を選ばずゲスイ ことやってそうな名前ですね?」
「はぁ~、真智~、お前なぁ~」
「あたし、的外れなこと言っちゃいました……?
すみません……」
「真智、お前鋭いこと聞くな~?」
「え? どういう意味ですか?」
「まあ・・・だいたい合ってる」
「合ってるんですか~い!」
真顔でそう平然と言ってのける谷先生の反応に、
真智は思わずその場にズッ転けた。
「話を戻すで。
本当は大学の決まりで部外者立ち入り禁止なんやけどな。
今日は規律にやかましい大学関係者がおらんし、うちとグリ2人だけじゃなく、特別にお前らも連れていったるわ」
「いいんですか~?」
「いいで。
お前らも来るか?」
「ねえねえ、四葉ちゃん? 宙?
二人とも来るよね?絶対来るよね?
選択肢は、
【もちろん来る】か
【あたしに従がって生き延びる】か
【ここで死ぬ】
のどれかしかないんだけど、どうする?」
「そうねえ~、真智ちゃんがそこまで言うなら
私も行こうかしら~」
「やった~! 宙は? 宙ももちろん行くよね?」
(真智お前、四葉のスルーは言いんかい!)
「谷先生、今何かあたしに言いました?」
「いいや、なんでもあらへん」
「そうですか」
「あたいはパス!」
先の真智の質問に対しての宙の答えだ。
「え~、どうして? どうして?」
「あたいはお前らみたいに機械とか科学とかあんまよ~わからんし、興味ない」
「え~、そんなこと言わずにさ~!
ねぇ~宙ってばぁ♪」
「あ!あたし今いいこと思い付いた!」
(ゲェ•••、
こいつ『真智』が思いついたことで今まで良かった試しは一度もない。
そう、それはまるでどこぞの世界の宇宙人•未来人•超能力者とお友達なツンギレ美少女のように)))
奇遇にも、四葉•宙•谷先生。
3人の気持ちは寸分違わず一致した。
「今度の夏休みの宿題の事だけどさ。
数学と化学は宙も必修授業でとってたよね?
数学と化学あたしが宿題写させてあげるから、ね?」
「ふぅ。
(珍しくまともな答えで良かった)
う~ん、そうやな~、どうしよっかな~」
「ねえ~真智ちゃん? 宙ちゃんは子犬が大好きだから、
真智ちゃんの家の子犬を触らせてあげたら?」
「そっかー! じゃあこうする。
VRに一緒についてきてくれたら宿題だけじゃなく
あたしんとこの『のん吉』をモフモフさせてあげる!」
「あんなことや、こんなこともいいのか?」
「い……、いいよ。別に好きにして」
「よし! それのった!」
こうして、真智•谷先生•グリ•四葉•宙
の5人は恥異賭大学の先生の研究所へと向かう。
道中ずっとおしゃべりに夢中になっていた真智達は、気付いた頃には既に大学の敷地のすぐ近くまで来てしまっていた。
「先生、ここって大学の裏口じゃないです~?
ここから入って大丈夫なんですか~?」
「四葉心配するな。
学内の警備システムの開発にはうちも関わっててな。
ここでこうやって、よし! できた。
もうついてきていいで!
警備システムに管理者権限を追加させたから、
ロボット、監視カメラ、オートロック一式はもううちらには機能しない」
「は、はい」
谷先生の研究室《ラボ》にはじめて入った真智達。
そこには、見たこともない実験器具や大型装置、
そして、ウインボウズとムックのパソコンが合わせて10台くらい置かれている。
「それにしても、先生。この作業テーブルの上、
汚ったな~いですね」
「こら! 順番に重ねてるんや。
勝手にさわるなや!」
「はいはい」
作業テーブルの上には、山積みの分厚い本と、
英語で書かれた論文らしき紙の山で埋め尽くされていた。
「よし、準備出来たぞ! お前ら、こっちだ!」
真智達が谷先生の方を振り向くと、
何やら重箱くらいの大きさの白い装置一つに、ずっしり大きめで目を被うかぶりものの装置5つが太いケーブルで繋がっていた。
「すご~い! これを使うんだ~!」
「こらこら! 真智! そんな乱暴に触るな!」
真智が重箱くらいの装置を軽く持ち上げて眺めているところを谷先生はそう言って止めに入った。
「アハハ~、つい興味を持っちゃって。すんません」
「悪い真智。でもわかって欲しい。
脳の記憶や意識のバックアップ情報は全てその機械にだけにしか保存されないんや。
だからもし万が一壊れでもしたら……終しまいなんや」
真智だけでなくみんなの前でそう注意する先生の目は真剣だった。
真智は言われたとおり慎重に扱うことにした。
谷先生の指示に従い、みんなはゴーグルをかぶり、準備を終えた。
「お前ら?
じゃあ、今からスイッチ入れるでー!?」
「はーい!!」」」
谷先生がそう言った直後、あたしは目を瞑り、
電子機器のファンの音に意識を集中させた。
まるでジェットコースターのように急速に体が軽くなっていく……。
真智は不安な気持ちでいっぱいだった。
(自分の体は存在しているのかな……)
しばらくすると、
目覚まし時計に使われていそうな電子ブザーの音が耳に入ってきた。
「着いたかな?」
真智は恐る恐るゆっくりと両目を開けた。
暫く目を瞑っていたせいか、眩しさのせいで周りが見えない。
それでも、暫くすると目が慣れて辺りがはっきり見渡せるようになった。
そして……、
真智は目の前に広がる信じられない光景に、
我を忘れ、驚きの声すらあげることが出来なかった。
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【登場人物】
•真智《まち》
•四葉
•宙《そら》
•谷先生
•グリ
コメント