蜂賀三月『キトンブルーの価値』の感想《ネタバレ注意》
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蜂賀三月『キトンブルーの価値』の感想《ネタバレ注意》

こちらの作品は、第36回日本動物児童文学賞受賞作品集に収録されているイラスト付きの短編小説です。

動画配信者に憧れている悠斗くんという中学生が主人公の本作。この悠斗くんは、子猫を拾ってきたお姉ちゃんを援護して自宅で子猫を飼える流れに持っていった理由が「動画のネタになりそうだから」だったりする。
この一連の流れを「計算高い子だなー」と思いながら読みました(笑)
その後、彼は動画の再生数やチャンネル登録者数に一喜一憂するのですが、これは小説投稿サイトに小説を投稿する人間としては共感する部分がありました。以前、どなたかがネットで「自分と他人を比べ始めることは地獄の始まりである」みたいなことを云っていたのですが、悠斗くんの様子もまさにそんな感じですね。
彼は「ネバースリー」という動画配信チャンネルの配信者たちのようになりたいと思いすぎて、無意識のうちに自分で自分を追い込んでいく。
その果てに、動画撮影目的で子猫・ダイフクに無理やりオヤツを与えようとしたり、最終的には家族に内緒でダイフクにハーネスをつけて散歩までさせてしまう。
散歩中にダイフクが逃げ出してしまい、自らの過ちに気付く悠斗くん。私はその後の彼の言動にとても感心しました。
ダイフクが逃げ出した理由は、小学生2人組がダイフクに触りたくて手を伸ばしてきたからなのですが、彼は家族の誰にも「そのせいでダイフクは逃げ出した。だから自分は悪くない」とは言わなかったのです。ダイフクを危険に晒した理由に小学生は関係なく、自分がダイフクを家族には内緒で強引に散歩に連れ出したからだと認めています。
ダイフクが逃げ出してまもなく、悠斗くんが家族に言い訳をしようか、嘘の説明をしてしまおうか少しだけ悩むシーン自体はあるのですが、結局どちらも選ばないんですよね。私が彼の立場だったら、ダイフクに近寄ってきた小学生のせいにしてしまいそうだなあなんて思いました(ゴミ中学生)
その後の家族会議のシーンでも、悠斗くんは自分の行動や考えの何がいけなかったのかしっかり理解しています。私より頭いいですよ、この子。
あと家族会議中の、お母さんの「悠斗、有名な人だからって正しいわけじゃないのよ。以下省略」というセリフが印象に残っています。Twitterでもバズった投稿やインフルエンサーと呼ばれる人の投稿が正義や事実として扱われがちですが、実際にそうなのかを自分で調べたり、見極めたりする能力は必要なんだよねと思いました。私もすぐに騙されるので気を付けたいと思います。
それから、怒ったお姉ちゃんが悠斗くんが持っていた猫用オヤツを捨ててしまい口論となった後に「おやつのお金は払う」と言っていたシーンも印象に残っています。だって偉すぎる。私だったら、たぶんお金払いませんもん(鬼畜ドケチお姉ちゃん)。お姉ちゃんまだ高校生なのに。本当に偉い。
偉いと言えば、炎上覚悟でダイフクを無理やり散歩させて危険に晒したことを動画にして投稿した悠斗くんも偉いと思いました。批判を受け止める覚悟で、本来ならば作らなくてもいい動画を「誰かの役に立てば…」と思って投稿できる中学生、素晴らしすぎる。
「猫の気持ちを大事にしてあげて」「猫を危険に晒すようなことはどうかしないで」そんなメッセージが伝わってくる優しい物語でした。
逃げたダイフクが見つかって本当によかった…。

余談。挿し絵のダイフクがとてもかわいい。64ページの絵が特に好きです。

※使用した画像はフリー素材です。

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投稿者

ささや
ささや

コメント

  1. 蜂賀三月 蜂賀三月

    ささやさん、素敵な感想をありがとうございます🙏🏻✨自虐風ツッコミのある感想に思わず笑ってしまいましたw
    悠斗もお姉ちゃんもどちらも悪役にはしたくなかったので、この感想がとっても嬉しいです。本当にありがとうございます!
    文学賞、今年も応募しようかと密かに思ってたんですけど、間に合いません😇

  2. ささや ささや

    @蜂賀三月
    コメントありがとうございます。
    とても優しい物語で、蜂賀さんの猫に対する愛情を感じました。
    それから笑っていただけてよかったですw いやほんと、私は人間が出来ていないので…こちらの姉弟の優秀さがまぶしかったです。いい子たちですよね。読みながら本気で感心しました。
    文学賞、また機会がありましたらぜひ挑戦してください。…と言ってもお忙しいのでしょうから、まずはお体を大切に!!

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