夜の校舎に忍び込もうと彼女に誘われた。
探し物があるから一緒に来てほしい。下校間際に耳打ちされた僕は、その場でこくりと頷いた。
明かりのない廊下はゴム底の足音を異質に響かせる。
スマホのライトすら点けないで先を行く彼女の背中を、闇に見失わないよう早足で追いかける。
「まだ見つけてくれないの?」
不意に立ち止まって彼女が言った。
気づけば僕らの教室の前に来ていた。
彼女は成績も容姿も特筆すべきところのない、良くも悪くも目立たない人だ。
ただ、毎朝一番に登校して本を読んでいる僕に、必ず二番目に登校して「おはよう」と声をかけてくれる。
その声は硝子を弾くように美しく、犯罪紛いの誘いにノコノコついてきたのも、ひとえにその声に惑わされたからだ。
彼女が囁くことならば、僕は何でも叶えたい。
「見つけてもいいの?」
廊下の窓から射し込む月明かりに、彼女の潤んだ瞳が銀色にきらめく。
指の背で頬をまるく撫でると、その垂れたまなじりが、媚を孕んで妖しくとろけた。
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