【ネタバレ注意】にかいどう青「チョコレートの香りがするね」
YAジェンダーフリーアンソロジーTRUE Colors収録の短編小説。
すごくいい作品だった。きちんとした知識を用いて書いているという印象を受けたし、変に物語を明るくしようとしたり、LGBTQの現実を都合よく書こうという意図が感じられなくて好感を抱いた。
主人公のアユは「男性の体を持って生まれたけれど、心は女性」という設定。彼女のような人を「MtF(Male to Female)」と呼ぶのだと私は本書で初めて知った。
そんな彼女の恋愛対象は女性。なので事情は少し複雑なのだけれど、「そういう人もいるかもしれないし、いても何の問題もない」と思ったので特に混乱したり首をかしげたりする事はなかった。
アユが男子たちから自身の性についてからかわれる場面や、昔の出来事を振り返る場面はとても悲しい気持ちになった。
アユは「わたしの存在は見逃してもらっているようなもの」と考えており、現実に期待していない。とても大人だ。いや、諦観しているのかもしれない。
母方の祖父母に三年間も会っておらず、彼らから何の反応もないことに対し「(彼らのなかで)孫は死んでしまったのかもね」と解釈していることが切なかった。
蛇足。
アユの兄がとても妹思いで、私はこのお兄さんが当作品のなかで一番好きだ。
※画像はフリー素材をお借りしました。
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