第1話 サルヴァ・ダルマ・アートマン 世界はみえない「かたち」で出来ている
・・・・・・・・・・・今のは、夢?
その日も僕は、
城一杯に隙間なく詰め込まれたケシ粒を一粒一粒取り出すような目で、億劫《おっくう》なほどたくさんの数字が並ぶ画面とにらめっこしていた。
「五色《ごしき》!ちょっと来い!
頼んでた事全然やってないじゃないか!」
「いえ、その、実は」
「いつも言い訳ばっかりじゃないか!」
はぁ~。 どうして僕がこんなことまでやらなきゃいけないのかなぁ~。
いっそのこと鬼山《きやま》さんなんて、
『消えていなくなっちゃえばいいのに……』
僕の手はそのとき、ワラ人形と五寸釘《ごすんくぎ》を無性に欲っしていた。
ある日、僕は本屋で奇妙な本を見つけた。
表紙には
『科学論文にもまだ載っていない
宇宙の本当の秘密をあなたに教えます』
という大きな文字と、星空の写真があった。
中身を見てみると、科学や哲学や神話など、様々な分野の知識が混ざり合っていた。
天文学者という職業柄、
元々その分野に興味があった僕は、つい興味本位でその本を買ってしまった。
それがすべての始まりだった。
その夜、僕はその本の興味深い内容に惹かれて一晩中読みふけった。
翌朝、気がつくと僕はその本を一日で読破していた。
すると、本の最後のページには、『宇宙の秘密を探す会』という団体の連絡先が書いてあった。
電話番号やメールアドレスやウェブサイトなどがあった。
僕は好奇心に負けて、そのウェブサイトを開いてみた。
そこには、『宇宙の秘密を探す会』という団体の紹介や活動内容や参加方法などが書いてあった。
その日の夜、 深夜のようにひっそりと静まり返った研究室《ラボ》で一人、
僕が書類を整理をしていた時のことだったと思う。
「ツンツン」
何かが、僕の背中をツツいている。
「はい?」
後ろを振り返るとそこには……、
おとぎの国からきた迷子の妖精のような
可憐な少女がいた。
その髪は長くツヤやかで、まるで水彩絵の具で描いたような透き通った水色をしていた。
そして、その妖艶な栗色の瞳はさっきからずっとこちらをみつめている。
「きみ……名前は?」
「《《愛理栖《ありす》》》と言います」
「きみは、え~と確か実家のお隣の女の子だよね?
雰囲気違うから一瞬わからなかったよ」
「実は……、私お兄さんに渡したいものがあるんです」
彼女は僕に恥ずかしそうに何かをくれようとする。
ラブレターかな?
それとも、バレンタインのチョコかな?
後者は時期的に違うか。
僕が自分の世界で天狗になり勝手に妄想を膨らませている間に彼女は僕に差し出してきた。
「これ……」
「あ、ありがとう。
名刺のようだね、なになに?
"宇宙の秘密を探す会"?」
昨日、僕が買った本と同じだ。
「愛理栖ちゃん、これはどういう……」
愛理栖は僕に名刺を渡すやいなや、飼い猫から逃げるネズミのようにこの場を去ろうとしていた。
「ねえ、君は本当にあの愛理栖ちゃんなの?」
「信じて! あなたが消えちゃうその前に……」
その言葉を最後に愛理栖の姿は見えなくなった。
何を言おうとしてたんだろう?
それに、愛理栖ちゃんの性格ってあんなだったかな?
何かひっかかる……。
名刺の裏には地図と時間、そして"誰にもいわないで"と書かれていた。
僕は喉に刺さった小骨のように愛理栖のことがずっとひっかかっていたので、後で先輩に聞いてみた。
「誰も来てないぞ! 夢でもみたか?」
「だって、現に来たんですよ」
僕は名刺を見せようとしたが、注意書きを思い出し思いとどまった。
そして話題を変えた。
「ところで先輩? 今日は朝から鬼山さんを見ませんね?」
「はい?
おい五色。 お前本当に頭大丈夫か?
鬼山なんて人はこの研究所にいないだろ」
僕は、言い訳なんてさせないぞと言わんばかりの先輩の表情に、恐怖すら感じていた。
終業のチャイムを聞くやいなや、僕はもらった名刺をポケットから出し食い入るように見つめていた。
『信じて、君が消えちゃう前に……』
僕は、愛理栖が去り際に言っていた"消える"という言葉が全然他人事とは思えない。
『ブルブルブルブル!』
突然、僕の携帯アラームが鳴った。
今日は、母さんのお見舞いに行く約束をスケジュールに入れてあったからだろう。
「あれ?
おっかしいな〜。
絶対に消したりとかはしていないはずなのに……」
僕は見落としが無いか念の為にと思い、
自分の携帯のアドレス帳を何度も何度も入念に見返す。
しかし、どうやっても母の名前をみつけられないのだ。
すごく嫌な予感がした……。
僕は、ワラにでもすがるような気持ちで、母の病院に電話をかけた。
「もしもし、五色ですが。203号の母に今から行くと伝えてもらえませんか?」
僕は電話の向こうの声を聞き、
喉の奥に指を突っ込まれたような衝撃を受けた。
そして同時に、空気の抜けたゴム人形のように倒れ込んだ。
「もしもし、五色さん? 大丈夫ですか? もしもし……」
床からの声は容赦なく僕に現実を浴びせ続けた。
この日、僕は神様なんて絶対信じないと決めた。
※今回のあらすじ※
研究員の青年五色ひかるは、水色の髪の少女・愛理栖から名刺をもらう。名刺に従って行動すると、母や上司が消えていく不思議な現象に巻き込まれる。愛理栖は何かを伝えようとするが、その真意は不明だ。
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※各話の【登場人物】は
各話文末にまとめています。
第2話 コーティ 5番目の次元① ※一部 愛理栖 視点
※前回のあらすじ※
研究員の青年五色ひかるは、水色の髪の少女・愛理栖から名刺をもらう。名刺に従って行動すると、母や上司が消えていく不思議な現象に巻き込まれる。愛理栖は何かを伝えようとするが、その真意は不明だ。
※要約終わり※
「あ~今日も疲れた~。
明日も早いし、も~うんざりしちゃう」
私は阿頼耶識あらやしき 愛理栖ありす。竹馬ちくまの中学に通っています。
訳あって親元を離れ、おばさんの家に居候いそうろうしています。
そして、私には小さい頃からずっと片思いの好きな人がいるんです。
それは、ご近所のひかるお兄さんです。
「明日早いし、ちょっと早いけどお風呂入って寝よっかな。
あっ着信だ?」
「愛理栖ちゃん、聞きたい事あるんだけど!」
「お兄さん?
市内の清掃活動の時に教えた番号、
覚えててくれたんですね。
お兄さんからかけてくるなんて初めてじゃないですか!
それにしても、すごく慌ててみえますが、どうしたんですか?」
「僕の母さんが入院してる事、君はおばさんに聞いて知っているよね?」
「入院?誰のことです?親戚のおばさんのことですか?」
「……。」
「ちょっと~。お兄さん?聞いてます?」
『プー、プー』
「お兄…さん」
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一方その頃、竹馬市内某アパート
僕はこの日仕事を早退し、
帰宅途中に母の病院に寄ったのだが……。
病院の受付で食い下がる僕の姿が周りの人達には不審者としてみえたらしく
病室に入れないどころか、危うく通報されそうな事態となった。
その後僕はしぶしぶ家路につき、ずっと考え事をしていた。
やっぱりどう考えても変だ。母さんが消えて存在しない事になってる。
冗談じゃない。
”消える?”
ふっと脳裏のうりにあの不思議な少女の姿がよぎった。
『信じて!あなたが消えちゃうその前に…』
「そうだ!」
確か、もらった名刺があったっけ。
さっき電話した時に本人に聞けばよかったな。
名刺の裏には場所と時間が書かれていた。
宇宙の秘密を探す会
次回日程 4月24日(日) 18時より
これって、今日じゃないか。しかも後1時間も無い。
場所はなになに?長野駅近くの廃ビルか。
よし、すぐに行ってみよう。
僕は、獲物を狙う鷹たかのように真っ直ぐに廃ビルを目指した。
後になって思えば、
それが運命の分かれ道だったんだと思う。
※今回のあらすじ※
前半は愛理栖視点の物語です。彼女は、ご近所のお兄さんひかるに片思いをしていますが、彼の母親が入院していることを知りません。
一方、ひかるは、母親が消えて存在しないことになっているという不思議な現象に遭遇します。彼は、宇宙の秘密を探す会という謎の集団に関係する少女から名刺をもらい、廃ビルに向かうことになります。
第3話 コーティ 5番目の次元②
※前回のあらすじ※
前半は愛理栖視点の物語です。彼女は、ご近所のお兄さんひかるに片思いをしていますが、彼の母親が入院していることを知りません。
一方、ひかるは、母親が消えて存在しないことになっているという不思議な現象に遭遇します。彼は、宇宙の真理を探す会という謎の集団に関係する少女から名刺をもらい、廃ビルに向かうことになります。
※要約 終※
僕が廃ビルと呼んでいるその年季の入った雑居ビルは、長野市の奥まった路地にひっそりとたたずんでいた。
大通りに出るとあれほど人間でごった返しているのにここだけは人を寄せつけない。
きっと不思議な結界でもあるに違いない、
僕はそう思った。
「ここが廃ビルかぁ。入口は…ええっと」
目の前には、出入口の代わりに、地下へと続く階段があった。
奥へ進むと、入口はもう目と鼻の先で一目瞭然だった。
そして中がどうなっていたかというと、
長机、パイプ椅子、ホワイトボード、
本当に必要最低限なものしかなかった。
まるでそこは、廃部寸前な文化部の部室のようだった。
そして僕が、前方のホワイトボードに目を向けると、そこには…
あの妖精のような可憐かれんな少女の姿があった。
彼女はすぐに口を開いた。
「あなたには特別な力があるから呼びました。」
「特別な力?」
「ねえ? あなたは最近、身の周りで妙な違和感を感じること無いですか?」
「こ、答えていいんだよね?」
「は……い?
もちろんですが、
どうしてそんなこと聞くんですか?」
僕…、
試されてるのかな?
それは、我が子の成長の変化を知る母親のように実に的まとを射いた質問だった。
「君、理解わかってるのか……?」
「どうやら図星みたいですね。
それで、こんな事が起こる原因わかりますか?」
※お母さんや職場の人が消えたこととか
「………」
僕の口からは絞しぼりきった雑巾ぞうきんのように何も出てこなかった。
「あなたの見たまま感じたままを私にただ話しさえしてくれればそれでいいつもりだったのですが……。
私、そんなに答えにくくて難しい質問しましたかね?
まあ、いいでしょう。
質問の仕方変えますね。
こんなことをなしえる人物、
お兄さんは誰だと思いますか?」
「誰って、アレ以外にそんなのありえないっしょ」
「じゃあ、誰です?」
ドクン、ドクン!
激しい心臓の鼓動という静寂だけが支配する閉鎖空間の中で、今か今かと僕からの返事を待ち望む少女。
僕はなり振り構ってなんていられなかった。
「……ミとか?」
目の前に落としたボールペンでも拾うかのような素振りで、僕はあえて淡々と言葉を発した。
「へ・・・?
あの~、ひかるさん?
ごめんなさい。
早口でよく聞きとれませんでした。
もう一度、聞いてもいいですか?」
「キミ・・・」
「はぁ~!?
もぉー!!
何で理由が『私』になるんですかー!」
「だって、愛理栖ちゃん?」
「はい?」
「君の珍しい性癖に対して僕からとやかく言うつもりは無いけど、せめて服……着ません?」
「あれ、嘘?
何で? ええぇぇぇー!!!」
※今回のあらすじ※
ビルに呼ばれた青年ひかるは、不思議な力を持つという少女に出会い、その力の原因を問われます。少女愛理栖に出会った彼は困惑します。
第4話 コーティ 5番目の次元③
※前回のあらすじ※
ビルに呼ばれた青年ひかるは、不思議な力を持つという少女に出会い、その力の原因を問われます。少女愛理栖に出会った彼は困惑します。
※要約 終※
僕の目の前に立つ少女は何故か上下下着姿で、
実に興味深いことだが、僕が指摘するまで当人はそのことに全く気付いていない。
肌の感覚や急な肌寒さとかでいくらなんでも自分で先に気付くだろ、普通。
「あのね……愛理栖ちゃん?
その年相応のスレンダーな体を
一応大人の男性の一人でもある僕に見せつけられても」
「嫌ゃゃあああ!
ふざけないで!!」
バチーン!
「痛ぁー!」
愛理栖は僕の頬に平手打ちをかまし、
そして……、部屋の奥の方へと一人入っていってしまった。
「あの、ひかる……さん?」
愛理栖は上着を来て戻ってきた。
「どうしたの?」
僕と目を合わせようとはせず既にうつむき加減だった彼女は更にはっきりと下を向く。
そして、両手の人差し指でモジモジと指遊びをしながら続けた。
「あの、さっきからひかるさんどこか上の空じゃないですか?
ちゃんと私の話聞いてくれてます?」
「うんうん!」
考え事をしている最中、急に質問され
慌てた僕は、首を縦に二回大袈裟に振ってみせた。
「まあいいです。
話続けますよ。
男の人ってこんなときもっとこう……、
鼻の下をでれ〜って伸ばしてませんか?
私、そう言う男の人達の目線、今想像しただけでも気持ち悪くて寒気や吐き気がします。
女性を性の道具としてしか見ていない獣達は全員、今すぐこの世からいなくなればいいのに!!
それに、そんな獣達は女性の裸を見たとき舌もだしてて、
片手だけ後頭部も触ってて、
あやとりが得意で、
頭部にはスポーツ狩りと坊ちゃん刈りの中間くらいの黒髪、胴体は年中黄色い長袖と紺色の半ズボン、丸眼鏡を常にかけていて、
射撃の命中率以外軒並み0ですよね?
だけど、"いつでもどこでも5秒で寝れる"という才能を持っている点だけが心配性で睡眠不足になりがちな私が唯一彼らを評価できる理由で……。
って、途中から少し話が脱線しちゃいましたが、結局のところ彼ら獣達って裸の女性を目にするとみんな決まってラッキースケベ的な反応しません、普通は?」
「◯び太だよね!?
それ絶対◯び太以外無いじゃん。
愛理栖ちゃん?
不可抗力で女性の下着姿をみてしまった男性に対しての君のイメージって、
ちょっと知識が偏っていると言うか、説明の途中から君の先入観のベクトルが大変残念な感じに暴発しちゃってない?」
「いいじゃないですか!
それとも何ですか?
世の中の多くの男性は私達女性を性の道具としか見ていないという私の考え方に何か文句でもあるんですか!?」
「僕の浅はかな発言で君を誤解させて、
気を悪くさせちゃったかもしれないね。
そこはごめん。
正直に話すね。
僕は理系でずっと研究にばかりに没頭してきたから今時の流行には実は疎いんだ。
だからなのかな。
それ、最近の若い人達の間で流行っていて、君たちの中では常識かもしれないけど、
僕が今までに学んだことのある経済学のゲーム理論や心理学の中でもそういった特殊なケースは今まで遭遇したことないんだ。
だからさ、今君がおかれた状態に対していったいどのような反応を示した場合が一番僕にとってコストパフォーマンスがよくて、
君と僕お互いにwin winなのか。
その最適解やエビデンス証拠がどうしてもみつからなくて困ってしまっていただけなんだ。
これで少しはさっきの、君に対する僕の失言に対してフォローになったかな?」
「はー?
話が難し過ぎて、私ひかるさんが何を言ってるのかはじめから全然ついていく気ないんですけど」
「ついていく気ないんかーい!!」
※バッサリ切り捨てやがった。
「あ、……はい」
「それと、あと一ついい!?」
「まだ何かあるんですか?」
「ごめん。これだけば今言っておかないと僕自身気持ちに収まりがつかないから言わせて」
「はい、どうぞ」
「眠そうな顔で耳の穴ほじるの今はやめておこうね」
「違いますぅー!
ほら!私、ちゃんと耳かき使っているじゃないですかー!」
「そこじゃネー!!
寧ろ、この状況で遠慮無く耳かき出しきたメンタルの部分が逆にスゲーよ!」
「ひかるさん、さっきから番犬みたいにギャンギャンうるさいですよね。
もう少し肩の力を抜……」
「喧しい!!」
「はい」
「よろし。
さっきの話をまとめるよ」
「少なくてもひかさん、あなたは女性の裸を観ても欲情はしないし、女性を性の道具としてみないってことなんですか?」
「あ、うん」
「素晴らしいじゃないですか!
紳士です!
今すぐ私と結婚してください♪」
• • • • • •
「えーと、あの作者さん?
僕たちのさっきの会話聞いてました?
途中の台詞……すっ飛んでますよね?」
「ひかるさん、違うんです!
さっきのひかるさんの返事に対して、
確かに私が言ったんです」
「え、ホント?
なんだ、それならよかった……。
・・・・・・・・・
って、軽っー!!
態度の変わり方激しすぎだろ。
駄目だよ、そんな簡単に自分の純潔をどこの馬の骨ともわからないような男にあげたりしちゃ……」
「ひかるさんはどこの馬の骨ともわからないような男なんかじゃない!!」
「え?
愛理栖ちゃん?」
目の前の少女は目に涙を浮かべ真剣な表情に変わっていた。
※今回のあらすじ※
下着姿の少女愛理栖がひかる青年に見られて恥ずかしがるが、彼は理系で感情が乏しい。愛理栖はひかるに結婚を申し込む??が……。
第5話 コーティ 5番目の次元④
※前回のあらすじ※
下着姿の少女愛理栖がひかる青年に見られて恥ずかしがるが、彼は理系で感情が乏しい。愛理栖はひかるに結婚を申し込む??が……。
※要約 終※
そして、僕が話を最後まで言い終わる前に強い口調でそう割り込んできたのだ。
「ひかるさんは私の大切な幼馴染ですし、私ずっとずっと前からひかるさんと……、
あ、痛い、痛い」
「おい、急に頭を庇って大丈夫か、
愛理栖ちゃん!?」
「だ、大丈夫です。
もう治りましたから」
「いや、全然大丈夫じゃないだろ。
待ってて、直ぐに救急車呼ぶから」
「やめてください!!」
「そっか。
僕にはわからない事情とかかな。
どっちにしても僕の車で病院に行こう。
愛理栖ちゃん。
君はそこで少し待ってて!
僕はここからすぐ近くの駐車場に車を取りに戻っててくるから」
「違います!
それに、症状次第とは言え、みんながみんな毎回病院に行ってるわけではありません。
ひかるさん、あなたは何か勘違いをしています。
これ以上ひかるさんに誤解をさせて迷惑をかけしまっても申し訳ないのでハッキリ言います。
今、私は生理じゃありませんよ」
「ごめん……。
女性の口から言わせちゃうなんて、僕は男として最低だね」
「そんな落ち込まないでください。
私はひかるさんをデリカシーが無いなんて思っていませんから。
この症状、実は今回だけに限ったことでは無いんです。
今日ひかるさんと久しぶりの再会を果たした私は、一旦家に戻ったんです。
そして、ひかるさんとの過去の記憶を思いだそうとしていたちょうどそのタイミングで今回と同じように頭が痛くなりました。
ですので、私は本当に大丈夫ですから安心してくださいね」
「了解。
でも、無理はするなよ」
「はい♪」
「よろしい♪
それで、愛理栖ちゃん?
君の話途中だったよね」
「そうでしたそうでした!
私、ひかるさんが女性に対して紳士的な人だってこと昔から覚えてたんですよ」
「そうなの?
じゃあさっきは何で?」
「今回たまたまご縁があって再会するまでに何年も経っていますからね。
ひかるさんが周りの男達から悪い影響を受けて毒されていないか試したんです♪」
「酷ちどイ!」
「アハハ♪」
「ちょ、そんなに笑うなよ」
「アハハ、ハハハ♪
可笑しすぎて横腹が痛いです。
だって、今のひかるさんの表情ギャグ漫画みたいにわかりやすすぎるんですもん。
してやられたって悔しそうなその表情、
傑作です♪」
「こいつー!」
「ひかるさん、でこピン痛ったーい!
暴力反対!」
「ごめん、ちょっとからかい過ぎた」
「そうですよ。
調子にのり過ぎですよ」
「お前が言うな、お前が」
ポン!
「痛ぁ……くない?」
「さっきはありがとな」
「え? なんのことですか?
って、えー!?
急にどうしたんですかひかるさん!?」
僕は何かを思いついた時のようなフットワークで、次の瞬間には驚きに目を丸くした愛理栖の至近距離まで距離を詰めていた。
しかし、僕が至近距離まで近づいた後、何故か愛理栖は目と口を閉じ正面よりやや上を向いていた。
「いいのかい、愛理栖ちゃん?」
「はい。いちいちそんなこと聞かないでくださいよ」
愛理栖の返事を確認した僕は、彼女の頭にそっと片手を載せた。
ビクッ!
「大丈夫か、愛理栖ちゃん?」
「大丈夫です。
ひかるさんの行動が私にとって予想外だったものですから。
すみません」
僕は愛理栖の台詞対してあえてリアクションを返さなかった。
なんとなく今の彼女は返事を求めていない気がしたから。
まるで愛しい飼い猫を撫でる飼い主のように、
僕はただただ静かにゆっくりと愛理栖の頭をさすり続ける。
しばらくの間そうしていると、愛理栖は目を瞑ったまま僕に話しかけてきた。
「ひかるさん?
さっき私にありがとうって言ってくれましたよね?
あれはどういう意味からですか?」
「僕がどこの馬の骨ともわからないような男として自分自身を例えようとしたとき、
君はキッパリと強く否定してくれたじゃないか。
あのときは本当に嬉しかったよ。
ありがとね、愛理栖ちゃん」
「あー、あの時ですね。
実はちょうどあの時、私の心の中にある人物の声がして、私自身に対してではなくひかさんを馬鹿にされたんです。
私が馬鹿にされるならまだ我慢できますが、
ひかるさんを馬鹿にされたのが私許せ無かったんです」
「なるほど、あのときはそういった事情があったんだね。
でもさ、同じ話を繰り返しちゃうようだけど、
愛理栖ちゃんにはまだ時間がたっぷりあるんだからさ、未来の自分の幸せをちゃんと考えた上で後悔が無いよう相手を選んでもらいたいと僕はそう思うよ」
「はい?」
「え?
僕の今の説明、もしかして難しくて意味わからなかった?」
「いえいえ違いますよ」
「違うってどういうこと?」
「さっきのは冗談です♪」
「冗談かい!!」
「はい。
まさかとは思いますが、
中学生の私が社会人のひかるさんと結婚したいなんて本気で言うと思います?」
「え? 男女の恋愛には年の差や
出会ってすぐ勢いで親密になっちゃうケースだってあるもんじゃないの?」
「フフフ♪」
「えー!?
何がおかしいんだよ?」
「ひかるさんは純粋で可愛いですね。
確かに男女の間の恋には年齢は関係無いとは思いますが、私とひかるさんの場合は一緒に同じ時間を過ごした思い出の蓄積が少な過ぎなんです。
とくに私は男性を少しずつ好きになっていくタイプですし」
「え?
じゃあつまり、さっきのは僕の早とちりで、
恋愛に対してがっつき過ぎだと、そういうこと?」
「はい」
グサー!!
「ひかるさん急にお腹を抑えてどうしたんですか!?
大丈夫ですか?」
「いや、大丈夫だけど。
ショック受けたときって普通こうやってグサー!!ってお腹抑えたりしない?」
「どこの普通ですかー、それ?
しませんよー!
私、ショック受けたときグサー!!、
ってこんな大袈裟に反応する人初めてみましたよ」
「へー、そうなんだね。
じゃあさ聞くけど、僕が愛理栖ちゃんの頭を撫でようと近づいた時に君が目を瞑ってたのはどうして?」
「あれは……」
「あれは?」
「私てっきりひかるさんにキスされちゃうとばっかり」
「そんな気無かったんだ、残念!」
グサー!!
「ひかるさん、あれってこんな感じですか?」
「こら、真似したなー!?」
「はい、師匠の真似しちゃいました♪」
「まあでも、僕にキスされちゃうって思うってことは、少なくとも僕は愛理栖ちゃんに異性として意識されちゃってるってことだよね?」
「もー!
ひかるさ〜ん?
またすぐそんな風に自分に都合のいいように解釈して私をからかう!
違〜い〜ま〜す〜!
私はもしひかるさんがあのとき私の唇を奪おと迫ってきたら、ハンカチを口の中にねじ込んで思いっきり笑ってあげようと思っていましたから」
グサー!!
「おー、またお得意のグサー!ですか。
流石師匠!
私にはそこまで上手く演技できません。
ところでひかるさん?」
「どうしたの?」
「私達、いつの間にか話が大分それちゃいましたよね」
「確かにそうだね。
僕達、最後どんな話をしてたっけ?」
「え〜と確か、私の裸をみてもひかるさんは欲情しないって言う……」
「そうだったよね」
「まあ、でもさっきは私も言い過ぎだったなって、
今になってちょっと反省しています」
「え、どういうこと?」
「私、世の中の多くの男性が私を見る目に対してあんな厳しいこと言いましたけど、
その相手が私の内面もちゃんと見てくれて女性の生き方を大切に考えてくれる相手なら、少しは大目にみてあげてもいいかなって。
ひかるさんだって、本当は私の裸をみて欲情してしまったんですよね?
私、大切な人には綺麗事や建前とかで誤魔化して欲しくないから聞いているだけで、ここは正直な気持ちを言ってもらっても大丈夫ですよ」
「大丈夫、心配しなくていいんだよ愛理栖」
「私、ひかるさんからそんな風に言ってもらえて嬉しいです。
ありがとう……ございます♪」
「僕は君の裸をみても絶対、欲情しないから!」
「へ?
はぁー!!?」
パチッ、パチッパチッ!
「え?」
「・・・・・・」
「あの……、愛理栖さん?
あなたの髪に溜まった静電気がどこぞの国民的バトルマンガの戦闘民族やビリビリ中学生みたく激しく放電はじめてるみたいですけど。
無言で下を向いて大丈……」
「・・・・・・最低!!」
「へ?」
「それ、逆に傷付くんですが……」
「え? ごめん……」
「デリカシーを微塵も感じさせない貴重なご意見、どうもありがとうございました。
空気を読むということを知らない哀れなお兄さん♪」
「えー?
ちょ、誤解だよー!
頼むから先ずは落ち着こう、ね?
先ずは一度深呼吸をしよう。
それから、ちょっと僕の話を……」
「ひ、ひ、ひかるさんの馬鹿野朗ォォォォォー!!!」
バカチィ~ン!!!
※擬音語です
「ぐ!?ぐはぁぉぅっっつ!!!」
少女のビンタは僕の右頬に見事クリーンヒット!
僕の体はまるでコマが回るときのように横方向に高速回転しながら勢いよく弾け飛ぶ。
本作を読んでいただいている読者が想像するイメージ空間より遥か場外まで僕はぶっ飛ばされた。
その後しばらくすると、 部屋を出ていった愛理栖は恥ずかしそうにぶつぶつ独り言を言いながら戻ってきた。
「さっきは・・・ごめん」
「もぉう、いいですよっ!
言っときますけど、
私の服はきっと、奴から私への嫌がらせで消されたんですからね。
あなたのお母さんや職場の人達と一緒で」
「はい……、了解!」
「本当に反省していますか!?」
「うんっ、うんっ!!」
僕は威圧的な少女に押され素早く首を縦に振った。
「わ、わかればまあ、今回命だけは取らないであげます」
「アハハ。
ところで話がかなり脱線しちゃったけど、
昨日君が去り際に言ってた最近の日常の異変の原因っていうのは何?
いいや、誰なの?」
「創造者です。
・・・・・・
「はいっ?
今なんて」
僕は耳を疑った。
※今回のあらすじ※
愛理栖はひかるの前で突然頭痛になった。
– ひかるは心配して病院に連れて行こうとしたが、愛理栖は断った。
– 愛理栖はひかるとの思い出を語り、頭痛の原因を明かした。
愛理栖はひかるに創造者が原因だと明かした。
第6話 コーティ 5番目の次元⑤
※前回のあらすじ※
愛理栖はひかるの前で突然頭痛になった。
– ひかるは心配して病院に連れて行こうとしたが、愛理栖は断った。
– 愛理栖はひかるとの思い出を語り、頭痛の原因を明かした。
愛理栖はひかるに創造者が原因だと明かした。
※要約 終※
「だから創造者、人です!」
まるで目の前のカーテンでも開けるかのように、
愛理栖は無垢むくな瞳でそう告げた。
「……、
ナンデストー?」
僕は目を皿のようにして驚いた。
愛理栖は話を続けた。
「この宇宙を消そうとする創造者について、
実は私もよくわかっていなんです。
私は、自分が幼い頃からいつか5次元の存在に生まれ変わると信じて育ちました。
ですが、不思議な事にその理由は私自身にもわからないんです。
私はその"理由《いみ》"をどうしても知りたいんです。
そして、5次元の存在になる事で、
生れ育ったこの大切な日常を守りたいんです。
今はまだこんな漠然とした説明しか出来ないんですが、何となくは理解して頂けましたか?」
「は?まぁなんとなく…」
「急いでいます!
だからお願いします!
いっ、一緒に……、私の名前真実の名前、探してもらえませんか?」
「え〜と……。
す、少し考えさせてもらっていい?」
あまりにも唐突な展開に、
僕の頭はすぐには整理出来なかった。
「はい、わかりました。
やっぱり、急にこんな事をいうと誰だって混乱しますよね?
ごめんなさい……」
彼女は僕と同じように宇宙に興味を持っていた。
"自分の出生の秘密を知る事"と"世界を救う事"。
彼女は二つの理由から創造者の存在を追っていると言う。
愛理栖は『宇宙の秘密を探す会』のリーダーで、会員は彼女を除きまだ一人もいなかった。
彼女は僕に言った。
「私たちは、この世界の裏側にある真実を知ることができる唯一の存在なんです。
私たちは、世界の創造者と対話することができる唯一の存在なんです。
私たちは、この世界から脱出することができる唯一の存在なんです」。
僕は本音を言うと、彼女の言葉の節々に胡散臭ささを感じていた。
どこかの信仰宗教だろうなと自分の中で結論付けていたのだ。
しかし、彼女の澄んだ目と、目の前の事に真剣に向き合おうとする直向きな姿勢に背中を押されてしまった。
僕はわらにもすがりたい状況だったので、
母を助ける何かヒントでも見つかればと思っていた。
だから、騙されたつもりでお金がかからない内は活動に参加させて貰おうと決めた。
「ひかるさん?
参加してもらうからには
もう後戻りはできません。
覚悟は大丈夫ですか?」
「後戻りはしないさ」
母のことといい、周りの人達の異常な状況の変化といい。
背に腹はかえられなかった。
僕にとって、
それは文字通り最後の選択だった。
※前回〜今回のあらすじ※
愛理栖はひかるの前で突然頭痛になった。
– ひかるは心配して病院に連れて行こうとしたが、愛理栖は断った。
– 愛理栖はひかるとの思い出を語り、頭痛の原因を明かした。
愛理栖はひかるに創造者が原因だと明かした。
※要約 終※
↑【登場人物】
•ひかる
•愛理栖ありす
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